2月の蝶のオススメ帳。

こんにちはからおはようまで、こんばんははまたあした。のだだです。
いやぁ、perfumeって最高ですね。夢の舞台で踊り歌う彼女たちがひたすらに眩しいです。次は自分もライブ行きてぇな。
ところで『Puppy love』のサビ歌詞ってさ、「一方的な表現のツンデレーション、君が好きばかり、ミフネー」て聞こえない?

さて。前回の更新は少々やさぐれていたので読者様への愛想もへったくれもない記事で申し訳なかったのだけど(この場を借りてごめんなさい)、それはまた別の機会に挽回させて頂くとして、今回はお世話になったとある方宛ての記事になります。紫のバラの人宛てとでも言いましょうか、私がその方に読んでもらいたいなぁというBLコミックスのオススメリストです。

とは言ったものの、集めてみるとなんだかやけにコミュニケーションスキルにまつわるお話ばかりで…。もし私がコレをいっぺんにオススメされたら多分読まない(爆)
だからドレかひとつでもセンサーに引っかかる物があればお読み頂きたいな、という気持ちで書きますね。


ではでは、トップバッターはこちらにしますかね。

遊覧船 (ディアプラス・コミックス)

遊覧船 (ディアプラス・コミックス)

あらすじ。

遊覧船乗り場の売店でバイトをする日和は、物書きの間宮のことが気になっていた。間宮は何故か大変気前がよく、日和に事あるごとに高額な駄賃をくれる。それはふたりが初めて寝た日もそうだった。日和は激怒するが、実は間宮はお金でしか愛を得る術を知らない人で……。表題シリーズ四篇を収録。日和と間宮のプレシャス・デイズ!

何度か話題にも出した作品で恐縮だけど、藤たまき作品で未だ一番好きな作品なの。ポエミーなモノローグとネーム(台詞回し)が自然と癖になる。
商船高校を休学中の日和(ひより)は旅館を営む実家の息子(ちなみに旅館は一番上の姉が継ぐみたい)で、学校のない今は遊覧船近くでバイトしています。
そこに現れるはやや正体不明なイケメン間宮さん。つり銭ばんばんくれます。て言うかバイトが受け取ってイイのかと思ったけどまあともかく、この方がとってもユニークで愉快なんですね。

お金が彼にとって信用の土台であり、人との繋がりに必要な「糧」なんですね。(誤解のないように、間宮さんが言うのは「金が愛」って意味ではなく、愛を営む上で何が糧になるか、なのよね。)
私は貧乏のくせにそういう人ってとても分かりやすくて好感を持てるのだけど、たしかに多額のお金や高価なプレゼントを貢がれると「自分に見合うんだろうか」と不安になる。ここらへん彼自身のあやふやな現在の進路ともリンクしていって、BLでありつつ青少年の成長物語にもなってる。人と人との出会い(恋愛含む)と進路と、そういう人生を描いたBL。

ともかく。
日和も間宮のポリシーをどこか間違った愛し方だと言いたげではある。けれどこの作品は愛し方について二人が理解し合う姿勢があります。日和にとって「異星人」の間宮さん“だから”間宮さんにとっては日和も異星人。
面白いのは日和の思う愛し方が、間宮さんの金ありきな愛し方へのアンチテーゼとしてしか言葉に出来ない点。愛に必要な糧が金でないなら何か?と問われて「身体」と応えたら「君ってスキモノで困るなぁ(>v<)」と返されちゃう。そしてじょじょに日和の言い方が変わるけど、実はコレ、愛の本質(普遍的な糧)がどこにもナイことの表れでないかな?
その二人の間のひずみを眺めることが、愛や人生という航路について考える材料になることは間違いない。



69 1 (バーズコミックス ルチルコレクション)

69 1 (バーズコミックス ルチルコレクション)

69 2 (バーズコミックス ルチルコレクション)

69 2 (バーズコミックス ルチルコレクション)

一巻のあらすじ。

かつて彼らが揃うと必ず学級崩壊すると言われた温(あつし)と真音(まなと)。彼らに密かに憧れていた高坂は、嫌がられても負けずに仲良くなろうとする吉岡のおかげで温、真音と「友達」になる。温と超ブラコンな真音は幼馴染みでなにか秘密があるらしく・・・・・・!?

うーん、なるべく一冊完結のをセレクトしたかったんだけどお笑い要素も混ぜたかったのでw
犬語や猫語が話せた少年は、幼稚園でつまらなさそうにしてる少年に興味を抱く。少年たちは最初かみ合わなかったが今は無二の同胞。
そして遠くからこの二人に憧れていた別の少年がいた。彼が進学した高校、そこにいたのは正しく佐藤温と佐藤真音、その二人だった。どこか性の香りが漂うサイケデリックな佐藤温&真音が繰り広げるドタバタ学園ライフ。そこに毒々しさが混ざると言う珍味。

二人に憧れていた少年、高坂。彼に中学の頃から付きまとってくる同級生・吉岡。高坂は二人とコンタクトを取りたいけど中々踏み出せない。対照的に、無理やり二人の間に食い込む笑顔のターミネーター・吉岡。
彼ら4人組のマイペースコメディって感じかな。結構ルチルらしい作品と思う。(ルチルって割とあるよね、フラグ立てっぱなしできっちりカプへ回収するでもなく、ダラダラ続かせるようなさ)

高坂が小学ん時通っていた塾で話題にされる事と言えば、ゲームやテレビではなく、通称「佐藤A」「佐藤B」が「また教師を辞めさせた」とか「橋を燃やした」とか、そんなことばかり。
高坂は中学あたりで引きこもっていた時期に、ネットの掲示板に塾で聞いた「佐藤A・B」の話題を載せたのね。そのスレッド名が「69」だった。
スレッド名をもじって高坂は二人を「無垢(69)」と表現したが、二人はあっさり「そんなのは俺たちの事じゃないよ」と押し付けられた表象を拒絶する。

吉岡はといえば、「泣きたいのに泣けない迷子」「女の子みたい、性別を感じさせない」と表現したけど、どうだろ。二人は作中でやはり<幼さ>の象徴として語られている。(そして幼さと「女の子」が同列に置かれる)
でも言い方を変えれば、彼らから醸し出される自由な(不自由な)空気は<男の子>だからこそじゃないのかなぁ?
私はこの作品読んで、シマダマサコさんは猥雑な厨房男子の笑える掛け合いを描くのが巧いなぁと思った。



丸角屋の嫁とり (ディアプラス・コミックス)

丸角屋の嫁とり (ディアプラス・コミックス)

あらすじ。

武家庶子である鈴は、本妻の目を恐れ男の身で女として育てられた。美しく成長した鈴はある日、町でならず者に絡まれたところを町人の新三郎に助けられる。以来、男というものへの憧れを育て始める鈴。だが父から借財のカタに嫁入りを命じられ……? 表題シリーズほか、年下攻リーマンシリーズ「新しい武器」を収録。

絵がね、結構雑く簡略化したものだったりするけど、ソレがまたワンホカ愛らしい。けれどこの方の作品も毒や刺が残る。モノローグが神の視点(?)というか、ナレーションみたいに随所に置かれてて、その淡々さが物語の鋭利さとよくマッチしてる。過去シーンとか、何かクル…。
山中さんってばドラマチックな心憎い演出で読ませるエンターテナー。

きせずしてこのコミックス、男性性がクローズアップされた作品だと思うわ。家の奥で乳母たちだけで暮らしてきた鈴がはじめて見蕩れた大人の男・新三郎。
「あれが あれが 男か」
そこから彼の中で強く男性アイデンティティが芽生える。と同時にソレがホモセクシュアルな情動と重ねられるのは、ある種古典的。更に、攻めからは「男でも女でもお前さんが欲しい」と情熱的に迫られる。
にもかかわらず描き下ろしを読むと、受けが「攻めに認められたい」と思う立場が<男>であるのに対し、女は…。
主に女性読者層のBLで描かれてる点含めどう評価するかよね。

ただ読んで欲しいのは、『新しい武器』の後日談というか、脇役・吉野視点のお話。「あのプロローグからそのエピローグに行きますか!」というね!これだから好きだわ、第三者視点。

しかし私このコミックス読んで、「BLって<初恋>を描いているジャンルなんだなぁ」という感慨を抱いたわ…。…なんかそれが、…うん。



輝夜 (幻冬舎コミックス漫画文庫 の 1-2)

輝夜 (幻冬舎コミックス漫画文庫 の 1-2)

あらすじ。

人嫌いだった祖母の訃報が届き、遺産をめぐるゲームに巻き込まれた槙村匡。彼女が唯一傍に置いたらしい美貌の青年・輝夜が、その鍵を握るという。気乗りしない匡だったが、憎まれ口ばかりたたく輝夜がふと見せる寂しげな瞳に、幼い日の記憶を揺り起こされ・・・?人造生命体〈輝夜〉たちのやさしい絆の連作集・・・単行本未収録、描き下ろしもあわせ完全文庫化。

Yahoo!ブックストア サービス終了のお知らせで試し読みできる臭い。
私基本的に作品は出された当時のコミックスを読んで、あとがき含めて楽しんで欲しいのだけど、せっかく文庫化されたので沢山の方に読んで欲しい一作。(そういえば単行本では絵で失敗したと仰っていたけど、今回も似たようなこと繰り返してますがw)

長編だからじっくり読めるよ。

近未来アンドロイドもの?のオムニバスストーリー。作中に「今時ヘテロオンリーってのもないだろ」って台詞が出てくるそんな時代。
本当に色んな輝夜とそのオーナーがいるんだけど、まずかれら「a-ライフ」通称「輝夜」について簡単に説明するけど、まあ一言で云うと愛玩用アンドロイドかな。かれらはオーナーを必要とする半有機生命体で、希望にそって成長速度が早くも遅くもなるし、オーナーの意思に従順に作られている。
更にオーナーが傍にいないと弱って死んでしまう!
それぞれ早く大人にさせる事情や幼いままゆっくり成長させたい事情など様々あり、面白い。
そしてもうひとつ、彼らは交接(セックス?)すると瞳が翠色に変わること。

しかしそんな輝夜たちにもイレギュラーがある。
それは人間であっても心にイレギュラーがあるように…、とでも言うべきか、結構揺らいでいる。

…設定だけ書くと何やらアレだけど、実は物語自体は輝夜の“主体性”こそを重く描いた様相。アンドロイドであるため、相手を愛する理由とか、何か確約した信頼の土台が無条件にあるようだけど、「ご主人様がいないと死んでしまう」といったDVの可能性等々を細やかに捌いている。数々のエピソードを丁寧に併読すると見えてくる「人間関係とは…?」があると思う。
たとえば機械的な仕組みがあるからこそ培える関係もあるけど、どんな人がソレを望みどんな人が拒むのか…関係性の中身をためつすがめつ読んでみるのもアリかもしれないね。

皆さんはコレを読んでどう思われただろうなぁ。たとえば「信頼」について。「自由」について。「恋」について。「生きること」について。
輝夜「だから」愛し合える?
もちろん心の水は人それぞれだと思う。けれど特定の恋愛感情が否定されたり若しくは推奨される中、「人それぞれ」の一言で恋愛の持つ社会的な偏り(なぜか性別が殊更重要視されるとか)をウヤムヤにして、「理由なんか分からない、ただ愛しただけなんだ!」と叫ぶのは私どうかと思うの。だけど、数々の<理由>もひっくるめて、真実なんて最初から追究すべきではないと主張するかのように、しかし現状すべてを己の人生のため捉え直すダイナミズムは、ちょっとイイかもしれない…。上手く言えないけど。
繊細で逞しく、はかなくも力強く。読んでるうちになんとはなしに心の中が翠の色に染まる、そんな世界観だった。



影あるところに (ディアプラス・コミックス)

影あるところに (ディアプラス・コミックス)

あらすじ。

外科医・中道の医局にやってきた調子のいい後輩・堤は、脳梗塞で倒れた院長の息子。その院長と付き合っていた中道は、居心地が悪い。そんな折、院長は他界する。父親を奪った相手として憎みながらも、中道を心配する堤は、彼に以前の笑顔を取り戻してほしくて……。描き下ろしも収録した、西田印、大人のビター、スイート・ラブ!!

病院内ですれ違った院長の息子と院長の愛人。一瞬見えたかすかな敵意は影に潜み同僚としての普通の生活が始まったかのようだけれど。そして愛人は夜の影にひそみ、病の床に着いた男にしなだれかかる。
愛人におさまる彼は影の立場なのか。沢山の別れを味わいつつ、いつも一人だけで立ち直る無力に健気な彼だから、その影は痛ましいのだ。そんな影に寄り添う光は何だろう?

私が最初に読んだ西田東漫画。昔はよくコレ読んで泣いてたな。単純に死ぬ話に弱いってことなのか、中道が「よほどの美形かマッチョ」ではなくパッとしないオッサンで親近感が湧いたからなのか。ただとてつもなく孤独の臭いがプンプンしたんだ。今はもうあまり泣くことがなくなったのは、私がその手の寂寥感を失ったからかもしれない。孤独を抱きしめて眠る大人、影にひそむ恋、光となって心を見透かし照らす父とその息子。影でひそんで一人グジグジしていたいのに、窓を開けたら差し込む光がまぶしくて、何故だか救われてしまう。そんな感じ。



スロースターター (ダイトコミックス)

スロースターター (ダイトコミックス)

あらすじ。

そばにいる幸せと、失う痛みと。君はすべてを教えてくれたからだ―――。
“小さくて細くて、でも目だけは大きくてすげーキレイ”な先輩・栗原良之(くりはら よしゆき)と友達になりたくて、楠木次郎(くすのき じろう)は陸上部に入部した。誰も寄せ付けないかのように、ひとりで走る栗原に次郎はなかなか追いつけない。だけど、やがてふたりの距離はゆっくりと近づいていき・・・。
表題作ほか、ハートエイクな短編3作を収録した傑作集。

きみがいるから気づける後悔もある。絶望のはざ間に自分自身と希望を見出し、それでもまた迷走する、そんなお話。
田中鈴木さん(この人の名前も↑と似て駄洒落だなぁ)の初期作品集。こちらも死をテーマにしてるお話が多い。
『めまい』(実は表紙の二人がコレ。表題作は別の人たちです、紛らわしい)とかもだけど、子供の頃見て忘れられなかった物語みたいに脳裏に刻まれる内容だった。『私立棘抜学園』もすげー荒削りなんだけど、あとがきに「もうこんなの描けないよね」とあるように、当時のパッションが生々しく伝わる作風。モブキャラの「だからどうという事はないんだけど」って古臭い物言いが何故かツボw

あと、『明日の約束』。もう「なんじゃこの終わり方は〜!(≧д≦)」て突っ込みたくなると思うんだけど、もう圧倒されちゃうんだよね。『SLOW STARTER』も泣き叫ぶ声が単純に素朴に胸が熱くなるし、名作揃いだと思うので一読あれ。



かみなりソーダ (ディアプラス・コミックス)

かみなりソーダ (ディアプラス・コミックス)

あらすじ。

「星の君」なんて呼ばれて優等生のようだけれど、それはちょっと仮面だったりして。全寮制の男子高。星弥は最近、同級生の龍泉が気になって仕方がない。急速に親しくなりある夜、ついに告白してキス。 でもそこはお墓の前で、龍泉は極度の怖がり。抱きついてきても意味はない。それどころか、その後の反応は……!? ラブ・イン・ドミトリー!!

家が嫌で逃げるように全寮制の進学校に入ってみたら、ステージ台には仏壇が…!
何となくソリの合わない二人だった。「やる気ないぜ」グループの急先鋒な龍泉、要領よく先生とも渡り合い周りからウケのいい星弥。対照的な彼らだけど、話してみたら案外ウマが合うみたい?なのに中々上手くいかないのは?

依田さんのコミックスどれをオススメしようかと思ったけど、やっぱりこの方なら学園モノ読んでもらいたいなぁとセレクト。細やかな人間管理能力を求められる寮長とか生徒会長キャラだから分かる依田テイスト。
理知的な策士家攻めとドコか抜けてる受けの掛け合い描写は相変わらず巧み。私、依田漫画ってゲイ(やクィア)を「ゲイキャラ」として出すんじゃなく、まず細かな物語舞台設定から入って行って、そこに自然とキャラを溶け込ませる、と同時にジャッジメンタルではない形で「マイノリティ」を淡々と冷静に描く手法が好き。
よく「人間の生々しさを描いた問題作!」とか触れ込みのお話あるじゃなあい?薬漬けとか、暴力沙汰とか描きつつ。でも私「人間味」ていうのは、たとえばこの攻めや受けやモブキャラたちのことを指すんじゃないのか?て思う。それくらい何か地味に(笑)、皮肉っぽかったり、人間味あふれてる。
「でもそうだね なんで君は宗教関係になるとそうリキむかなとは思うよ 誰も君を洗脳したりしないんだからいちいち犯されるみたいに騒がなくてもとは思うよ」
不覚にも笑うw

…しかし空気読めない俺としては細かな常識観念やそのズレで物語が展開してゆく感じが少し居たたまれないけど、KYだからこそ読んでて和むのよねぇ。分かるかしら、この気持ち。
あ、なんか御幣あるな。描いてる作家さんも頭よさそうだなって思うんだけどガチガチに常識的って意味じゃなくて。日常の細かな所作とかシキタリとかを立体的なエピソードで解説してくれるような面白さがあるんよね。そんな話の中で、人として冷血な自分どうよ、とか芯をエグる内容もあって、だからこれも結構叙情的な作風でもあるのよ。

「その時の泣きたいような気持ちをどう表現したらいいかわからない」
とモノローグも結構しんみり。

で、描き下ろしの『桃色妄想少年』は脇キャラ視点。だけどコレが気ン持ち悪いのよ〜〜〜!男同士で付き合ってる星弥と龍泉。同部屋仲間で「どっちが女役?」みたいな話をしていて、そこから龍泉を女と思い込んで止まないテル氏。
面白いのは、同性愛に擬似異性愛性を体現してるのが「同性愛者って異性になりたい人なんでしょ」と乱暴に括られてる側ではなく、龍泉を女だと勝手に見立ててるどノンケ自身という点。しかもその偏向が破綻してることをも如実に体現してしまっている。
風呂で裸を見てるにもかかわらず、「ああ、龍泉は女だから髪伸ばしたり男の星弥と付き合ったりするんだね」とかグロテスクな事を言えちゃうのはさすがに笑うしかないけど、ただ、実際笑うしかないほど世の中の恋愛定義はヘテロ色でイッパイなのかもね。

まあ、生身のシスジェンダー女子を見て妄想からさめてしまい、あらためて男子校の「汚さ」を確認する…というシークエンスは、ジェンダー構築面で保守的だけど。


…はぁ、ちょっと長くなりすぎた。ひとつ省いてこれで最後にしようかな。


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最後は私がすごく影響を受けたといった作家さんのコミックス。
以前腐男子系の同人誌に寄稿させて頂いたとき、BLについて「むしろ批判したいところの方が多いのに好き」と書いたけど、なんというか、私にとって「BL」と言えばこのひとなのだ。
からっぽだった頃、からっぽにしなきゃいけなかった時期を何かで塗装し直さなきゃならなくて。たまたまあったのが彼女のBLだった。
何かシンパシーという電流が走ったの。
絵柄も、エロスも、思考も。
持っている全部の作品読み返した時分かったわ、私がBLにおいて何故彼女を選んだのか。様々な渇きを代わりに描いてくれていた。困らされることもあるわ、でも寄り添うことが出来た。それをすべてここで書くことは出来ないけれど、これが私の第二の出発点だったんだね。
今他の人がレビューしてたのを見たんだけど、恋を描くというより恋を描くことでその人間の裏側まで暴いてしまうんだ。

花のある生活 (新装版) (ビーボーイコミックス)

花のある生活 (新装版) (ビーボーイコミックス)

内容的に一番オススメしづらいコミックスだけど、一番楽しいので紹介w
ちなみに。さっき「新装版や文庫ではなく当時発売のものを読むべし」と書いたけど、この人のあとがきも面白いのよねー。自分と編集担当者を動物と飼育係にたとえてみたり、読者に向かって「ひとりに2,3冊購入をノルマに課したい…」みたいなことを、編集担当者にドツかれてる絵で書いてみせたりw
あらすじ。

ガリガリでお人好し。おまけにウスノロで…でも、とっても優しい天然・五百川の魅力に抗えず、ズルくてモテモテで格好良い…変態の倉橋先輩が、周りの迷惑お構いなしに変態ちっくに攻めまくり……!? 純情可憐な五百川の貞操の危機を巡って、万年発情男・倉橋の恋の行方は…!? 噂のラブコメ、新装版で登場!!

表題作はまあ先輩にセクハラされまくってソレに気づかぬオボコい受けの話って感じ。なのに純情さを残す卑怯さ。
受けの偏屈なまでに激しいオボコさ、それに口八丁でつけ込む攻め。読者は当然「アホかw騙されるなw」と笑い飛ばせるのだけど、何故か読んでいく内に男同士の常識・貞操観念がバカらしく思えてくる。「いやいや意識しすぎ」「でもお揃いのマグカップはやっぱり変じゃ?」「ああ先輩は僕を気遣ってくれただけなのに変態だなんて罵ってゴメンナサイ!」。受けと共にコッチまでじょじょに狂わされるw

…というか私自身、BL読み始めた頃特に、ノンケであるとか、アルハズノナイモノがアルハズノナイバショに生まれさせる力技を欲していたから、そういう意味で力強く感じたのかもしれないな。恥ずかしい話だけど。

あと、この人は作品を読めばどういう思考回路してるか何となく分かった気になれちゃうんだけど、時々繰り返される攻めの脳内会議(w)がぶっ飛んでる。なので読者を選ぶ作品かもしれない…。
とまれ、ヤッてることゲスイのに実は…というギャップが楽しいお話。

『褪せる』『密室』は本当に暗い。
本格的にレイプ監禁ものだから気をつけて欲しい。だがそのダークな破壊力は何かひきつけられる物がある。受けのズルさ、攻めの執着。
「どうしてあんたなんかが一番なのかよく解んない」

『めまい』も大概ダーク。
スポーツトレーナーの攻めはこれまで男子高校生と遊んでは捨ててたんだけど、今は高校球児の恋人が出来た。本気で惚れた彼といると心が洗われる、愛しい恋人。お話は妖しいムードから濃厚なセックスになだれ込むが、受けの言葉で関係は急直下する。ある種自虐的ですらある受けの加害欲求。

読んだ後やりきれなさが残るが、それゆえに生々しく痛みがのぞく。
まさに悪夢。だけど、悪夢が醒めない時は悪夢を読みたいもの。
さすがに口に合わなさそうならコチラをオススメ。


恋姫 (新装版) (ビーボーイコミックス)

恋姫 (新装版) (ビーボーイコミックス)

あらすじ。

人気歌舞伎役者・優紀は遊び仲間の秋川に密かな想いを寄せていた。戯れを装って身体の関係を持つようになった二人だが、優紀は彼の心にも期待し始め…!? 続編の「小春日和」や、人気読み切りも収録された特別編集・新装版!!

江戸時代モノ。こっちは『運命の人』もあるし。何ていうか恋することの不可能性について描かれてる。今気づいたけどこの人もモノローグ量が多いなぁ。
「誰にも影響のない人間でありたい」
無気力感がひどく堪らない。

表題作は結局男の自意識だけで話が周ってる。そんな主人公が女形というのがまた皮肉で、そしてみんなしっぺ返し食らう構成。

描き下ろしでは攻めが「一度いい仲になって別れてもこうして話してくれて、うんうん男同士はいいね、空しくないね」と言うのだけど、勿論んなこたーない。「あの子がいい子だっただけ」と受けにやんわり窘められると、失望した様子の攻め。
この描き下ろしで結ばれない二人も一応は救済されちゃうんだけど、その相思相愛をホモソーシャルな関係に結び付けない予防線が張ってあるのが面白い。
いや、けっして作者の意図したことではなく、これは攻めが抱く恋の不条理感を強調した演出。とまれ、“あえてオブラートに”結ばれる余地を描くことで、パートナーシップの幅が広がる印象を受けた。他にもショタ作品でそんな話描いてたけど、BLで明示的なカップルを描かずに許されるのが、この人の稀重なところだと思う。
私にはそのほうが居心地良いみたい。


ああ、私が求めてる物語はそういうものなんだなぁ。
ずっとBLを「自分の物語」として消費してきたけど、私は誰かといても<ひとり>の話を求める傾向があって、ソレを求める限りBLは自分の物語足り得ない部分が残るのだと思う。愛し合う結果が欲しいんじゃない、その過程でもいいから、恋という磁場だからこそ果たされる目的を描いて欲しい。有体に例えてしまえば、求められることで保たれる自己イメージや、自尊心とか。
それは恋愛や人間に対してとても不誠実な欲望だけど、私はあくまで自分を慰めるものが欲しいだけ。これからも誰かを好きになれるとは思えないけれど、やっぱり欲しいのだ。<ソレ>が手に入る磁場が恋愛にしかないのなら。

ある作家が「BLは社会的なことを抜きにして純粋に恋愛だけを描ける」と語っていたけど、どうやら「純粋」であるらしい恋愛を読むことで、副次的に得られるものがあるのは分かったわ。

…ひとにオススメしてるのに何自己発掘に勤しんでるんだろう。。。許されて。
さて、なんとかこの日付のうちにupしたかったから急ピッチで書いちゃったけど、ここらへんで締めるわ。


長くなったけどリクエストしてくれた紫のバラの人、そして読んでくださった方、ありがとうございました!