一個の人格が描く愛の、その末路は?

甘い首輪 (幻冬舎ルチル文庫)

甘い首輪 (幻冬舎ルチル文庫)

後半が私としてびつくりでした。後で感想書く。(←せこい。)

一応帯とあらすじを書くけど、これから読む人は読まないほうがよいと思う。もし読む人はここをスルー。

私が欲しいのは、あなたのために生きられる人生だけです。
小野瀬グループの跡継ぎ・明生には、高見信矢という「番犬」がいつも側にいる。しかし、明生が亡父と同じ顔の男に誘拐されて?!

あらすじ

小野瀬グループの跡継ぎ・明生の側にはいつも番犬がいる。番犬の名は高見信矢。明生のボディガードをしていいる。明生が友人の猛に薬を飲まされたのをきっかけに、身体を重ねるようになったふたりだが、信矢は仕事の一環として相手をしているようで……。そんなある日、明生が誘拐されてしまう。しかし何故か、誘拐犯は幼い頃に亡くした父親と同じ顔をしていて―!?

ホモフォビックな部分は特になし。それよりも、受けと攻めのパーソナリティが中心みたい。同性愛への距離と抵抗は、おざなりなものだ。
では、ここからネタバレ。

で、どうだったかと云うと、さほどキャラクタにうま味がない。一応主従関係なはずなのに、信矢は馬鹿な受けを上手に扱う頭のいいキレモノと云う感じで、主従関係っぽさを期待した人はよした方がいい。
しかも、身体を重ねる際も、仕事の関係だからって、さらっと流れてしまって・・・。もうちょっとハードル高かった方がよいかな。だって、二人は昔「信矢お兄ちゃん」「あお(明生の略称)」と呼び合った仲で、明生の父が死んでしまってから離れ離れになってしまったという濃ぉい関係だから。

そうしたとき、そう簡単に身体を重ねるのもいいけれど、信矢のほうに頑なさがないあまりどういうつもりで明生との関係を見てるのか不明。だって、二人の仲は親しみがなくなったといっても、それほど仕事としての硬さがあるわけでもないからちょっと中途半端な印象がただでさえあるんだもの。そうしたとき、葛藤がないと、幼き頃の濃い関係がなんだかインパクトのないものみたいに映ってしまい、少し困惑。攻めの受けに対する態度が、以前の親しみを排除した、非常にドライで読者が読んでて痛々しいものなのか、それとも元々そんな強い絆もなかったと云う、それはそれで虚しいものだったのか。そういう演出が、はっきりしない感・・・。

再会した時、信矢は以前のように親しみを持って接してくれなくなった。それが、仕事のなかでのあるべき姿勢からだ。しかし、ドライに身体を重ねるなら、それならそれでもっと冷徹さのあるドライな空気を演出してもらいたかった。前振りと、攻めの心情整理をもうちょっと詳しくお願い。

で、話の内容は、
攻めは離れ離れになったとき、受けのボディガードになることを選択したのだ。それを、小野瀬グループのトップである祖父・翁による圧力だと判断し、やりきれない気持ちを持つ受け。受けはいつか攻めを小野瀬から自分から解放したいと思ってる。


そして、受けが親友に薬を盛られて変になってしまい、それをきっかけに身体を重ねてしまうと云う話。そして、明生は、信矢の事を好きだとそこで自覚してしまう。昔からの大好きなおにいちゃんが、今では愛する人になってしまう。そして最後らへんには受けが誘拐される話であるわけだけど・・・。


誘拐されて勿論攻めに助けられます。
あまりにもバカで素直な受けですが、しっかり者の攻めと親友に助けられます。
そして、この話のキーは小野瀬グループの「負の遺産」である。巨大な財力を持ち、その裏には更に強大な力を持つ。そのスケールが実は思ってたよりでかい。それが後半に明かされるのだが。。。


でも、そういう事実が明かされるなか、受けは、攻めや小野瀬のトップの祖父・翁の望むように前向きに生きる事を選択する。
そこで、信矢が明生に対してどういうつもりでボディガードになったのかの種明かしがされる。そこで、やっとふたりは気持ちがつながる。結構攻めが鬼畜臭くて、粘着な感じv


受けの為に生きる権利を持つために、彼の守り手として生きることを選択した攻め。それを「ゆるす」受け。ふたりは、お互い絶対必要な存在として映っており、唯一無二の存在なのだ。それは、愛してるから、と云うだけではなく、互いが一緒に育ってきた中での人間的な強い絆なんだ。

 「自分でやるなどと言って、あなたの側にいられる権利を私から奪わないでください。闇の部分はこのまま私に委ねて……。―どうかこのまま、私にあなたを守らせてください。」
[…]
 「この想いが、私の願いのすべての原点です。―どうか、共に生きることを許すと言ってください。」

ところで、Hは薄めですので、苦手な人も安心。(私のことです。)






で、ここからが私のびっくりしたところなんだけど。もしこれから読む人はネタバレになるので読まないでください。BL自体を読まない人とか、もう既に読んだ人だけ読んでね。



後半の20pくらいの話が私としてちょいとビックリだった。ミステリー小説なんか読んでる人には大した事ない話かもだけど。


受けは祖父翁に溺愛されて育った。そして亡くなった父にも愛されて育った。そして、受けも父を愛していた。しかし、その父も、小野瀬グループの闇の部分に触れており、非常に残酷だ。グループのためなら「それならば後々面倒がないよう、それも始末しておきなさい。―子供は親を慕うもの、復讐心を抱かれては面倒だ。親と一緒に逝かせてあげるのが親切だろう」と言って一家を殺すことも躊躇わない。その一面を知らずに、父を亡くした受け。


受けは、実は父からある手ほどきをされていた・・・。それは、催眠だ。
その内容とは、死に至らしめる暗示だった。どうもそれの必然性が分からないのだが、それはともかく。
その暗示の条件たるサインは、父と信矢しか呼びかけない「あお」という愛称だった!

 もっと特殊で、明生だけに効果のあるなにかが使われているに違いない。
 信矢が現れる前には、光樹だけが使っていた『あお』という愛称。
 光樹の死の直後の虚脱状態から明生が戻ってこれたのは、信矢が『あお』と愛称で呼んだ後だった。
 もしもそれが暗示のキーワードになっていたとしたら……。
 (あり得るか……か?)
 その愛称を使っていたのは、光樹と自分だけ。
 その名を呼ぶ者を無条件で慕い、甘え、だが決して邪魔にならないよう我を抑える。
 常に一緒に居ることを喜びと感じるが、そんな自分が相手の邪魔になった場合はすぐに己自身を排除する。

そう、すべてはプログラムされていた感情だったのだ。それを受けて信矢は、手を打ったほうがよいか一寸迷うが・・・。

 そしてなにより、もしも信矢の予測が正しければ、光樹亡き今、明生を無条件で愛情を注ぐ相手はこの世で1人、信矢だけ。
 幼い日にひとめで魅了されたあの微笑みを、ずっと自分のものだけにしておける。
[…]
 (―このままで、良い。)
 誰が強要したわけでもなく、「あお」と呼んでと信矢に望んだのは、今も昔も明生本人。
 無意識とはいえ、彼自身が、自分にかけられた首輪の鍵を信矢に委ねたのだ。
 なにを迷うことがあるというのか……。

我が物にするため、明生の人格ではなく、ひとりになってしまった守りたいと思える人との人生の為にこの選択肢を選ぶ。

彼には、明生以外にはもうかけがえのない人はいない。そして、この1人の人間が選んだのは、純愛とは言いがたい独占と、それにともなう相手への完璧な支配だ。
それを、彼等の愛として描いた本作。
そこには、なにか愛と云うだけでは語りつくせない人と人との執着執念がある。そういうものを描いた末に、「二人のための愛」はどのように象られていくものか。
そこが非常に興味深い。


だから、本作のような仕上がりを見て、この作品は、むしろこの後の話を描くべきものだ!と思った。
一個の人格としての生々しくも個人的な欲望が、ひとまとめにしてしまう乱暴な「愛」という言葉を、一体、どのようなものとしてその人生で刻んでいくのか・・・。
それはBLとしてだけでなく、人生を描く創作物として重要なテーマだと思う。


できればそんな話の続きが読んでみたいな・・・・。