横にも縦にも深く広く。

はい、今回はリブレのワンコ攻め×意地っ張り受けの話です。映画好きな二人の話。ちょっと後半よかったなぁと思ったので簡単にレビュー。

駄犬は愛を求める (ビーボーイノベルズ)

駄犬は愛を求める (ビーボーイノベルズ)

帯付きなので今回も。

ゴーイン年下男×意地っ張りなオトナ
ある日突然、強引なオトコ(大型犬系)に惚れられて、迫られて?! 見もココロも乱される大量書き下ろし付き!!

はい、ちなみに補説いたしますと、年下男の部分には振り仮名で「ワンコ」と書かれており、更には「オトナ」「大型犬系」「ココロも乱される」の語尾にはそれぞれハートマークがついております。(丁寧な説明)

 「巽を全部、オレのものにしたい。抱きたい」
 巽が勤める店にやって来た、いけ好かない客・裕城は、実は人気若手俳優。クールなイメージの裕城だけど素顔は全然違って!? 裕城に惚れられて、身も心も独占したいと迫られた巽は『お試し期間』を設けることに。情熱的な年下のオトコなんて全然好みじゃない!でも、まっすぐに愛をぶつける裕城に、巽は揺れて…。ワンコ系年下×意地っ張りなオトナ 大量書き下ろし付!!

オトナの語尾にもハートマークが…。

お試し期間とか、独占したいとか書かれてあるけれど、そのどちらもステレオなイメージというより、ワリと軽めのタッチだったので、この傾向が嫌いな方でも読みやすいかと。

で、感想。
攻めが単純にワンコではなくて、俳優として二面性をもたざるを得ないけれど、でも実にまっすぐで純な少年と言った感じ。はじめの方は19歳!
受けは、もともとは美男好きなタチだけれども、攻めとの出会いにより方向が変わっていきます。元気なレンタル屋の店長。ちなみに受け視点の一人称での構成。

私の事を言わせて貰えば、恋愛小説はあまり共感が出来ないので、恋愛論的BLは好みません。ですが、後半がキャラクタの人情味のあるお話になってあるので、そこらへん好感が持てました。芸能界モノにしてはそれほど心配していたようなハラハラする展開にはなっていませんでしたし、ふたりの恋愛模様が中心の話。
受けがゲイで(私からすればホモフォビアも多少は内面化しており)、攻めをゲイにしてしまったか?とかとか焦ってあるのですが、ゲイの風当たりの強さに懸念があるために、いつまでたっても攻めとの関係に踏ん切りがつきません。今回の話は、受けのそういう危惧がキーになっていて、そこで攻めの純情とが向き合うとき、ゆっくり信頼を深めふたりの恋が根付いていくと云う感じ。(それぞれ関係を持つには色々個人的な不安材料があるのですが、ちょっと簡単にデキちゃったのが人によっては安直に見えるかも。)
攻めが案外ただのワンコではなく、それなりの温かい人情が読めました。
テンポは、少し早目かなぁ。

以下ネタバレ。

 物心ついたときから、男しか好きになれなかった。苦しかった。同じ嗜好の持ち主がいると知って、そういう相手と何度か恋をした。それでも臆病で、本気にはなれなかった。
 「オレだって―同性だってことはさんざん考えたよ。巽が思うよりずっと、オレは考えてる。なのに、なんで勝手に決めるんだよ。どうしてオレを信用してくれないんだよ」
 心の底から……生まれて初めて、本気で好きだと思った。でも、やっぱり好きになっちゃいけない相手だった。ノンケだからじゃない。裕城には未来があるから。

ここでは、受けはゲイの風当たりの強さに危惧をしている。攻めが将来俳優として成功するためには、現実的な問題を越えなければならないけれど、攻めを信用できず更には臆病で、ふたりの恋愛を通す気概がもてない。
彼等の人生が、その重みに耐えられるか。そういうところから、二人の恋愛は難しさを持っているように思う。しかし、人生の中で何が大切なのか、どう生きていたいかと云うその意志。そういう大事なものを攻めはちゃんと抱えて生きたいと望んでいたんだ。
攻めは純粋に受けを愛している。そして、彼を独占したいと共に、彼と共にありたいし夢を分かち合いたい。彼を中心に生きたいと思う。自分の世界は巽が中心だ、と言う。そういう生き方を自分の意思で選んだのだ。何より大事なのは相手。


後半ごたごたが起きて、ふたり上手くいかなくなる。そこで色々あるのね。で、ちょいとゲイバーで攻めが受けの居る前で仕事の話をするシーンがあるのだけれど。
イギリスに仕事に行ってきていた攻め。そこで次のゲイ役をこなすための取材行為から引用。

 「だって、気持ち悪くないんですか?」
 素直な問いだった。裕城はちょっと考えてから、口を開いた。
 「オレ、ロンドンで結婚式に出くわしたんです。たまたま教会のそばに通りかかったから、やってて……それがゲイのカップルの式だったんだ。」
 「イギリスでも同性婚が認められるようになったからね」
 前田が言い添える。
[…] 
 「失礼かなと思ったんだけど、『神は同性愛をお許しにならない、って言う人もいる。それをどうやって乗り越えて、祝福できるようになったんですか』って。そしたらお父さんが、『許されないとわかっていても、息子達は神の前で永遠の愛を誓おうと決めた。とても勇気がある。そして、相手に対する誠実さも。だから、私たちは祝福しようと決めたんだよ』って。」
 裕城は青年やアオイの顔を順に見つめた。
 「オレは……ゲイのみなさんのこと、きちんと理解してない部分もいっぱいあると思います。でも、すげえなーって思っちゃて。あ、逃げないんだ、すげえって。」
 俺はハッとした。
 「ゲイの人も、ゲイじゃない人も会社とか学校とかいろんなところで逃げないでがんばってるでしょう?大変なのは同じはずなのに、ヘテロの『大変』がよくて、ゲイの『大変』は間違ってるなんて、そんなのおかしくない?誰かを愛する気持ちも苦労も、きっと同じなのに……」
 決してうまい説明とは言えなかったが、裕城は自分の言葉で素直に話した。

ていうか理解も何も、以前巽に認めたように自分がゲイじゃんー。私は残念ながら彼の純情には同意しない点も多いけれど(て言うか失礼だよー、ていうか教会にだっていろんな考えもあるよー、ていうか別に同じ苦労も愛もそもそもないよー)、真摯な訴えが、暗に受けに伝わる。壁があっても、自分で選んだ生き方、意志を貫こう。それが自分のための生き方なんだ。二人で生きたいんだ。
最後受けは自分のまっすぐな意思に目を向ける。そうして、彼と云うヒーローを呼ぶんだ。

 「オレさ、巽とのセックスが終わるといつも思うんだ。今までが最高だったって」
[…]
 「夜だけじゃないよ。今まで知らなかった巽の姿を見ると、やったーって思う。結構わかったし、もうコンプリートしたかなって調子に乗ってると、まだ見たことない巽がいるんだ。それってさ、すごく幸せなことだろ?だって、掘っても掘っても宝が出てくるみたいなもんだから」
 裕城は目を輝かせ、嬉しそうに言った。
 「なんでかなって考えたら……当たり前なんだ。だって、巽もオレも毎日ちょっとずつ変わっていくからさ。店にさ、新製品やリニューアル・バージョンが並ぶのと同じなんだよね。そりゃたまに『ガーン』とか『ムカッ』とか思うけど、オレ、そのときちゃんと言ってんじゃん」
[…]
 「直してほしいなと思うところもあるけど、直したくないっていうのが巽の意思なら、そういう巽を好きになれば済むだけの話だから、簡単だよ。[…]他のものを捨てて、巽の事を入れる。」

私が苦手なのは、際限ない歓びだ。そういうのはどうも非現実的だと思うし、お話の中では少なくともありえてもそういうのは、正直息苦しくらいに窮屈でどこか怖い。
けれど、彼等の選んだ道は、お互いが中心の世界であって、その世界も変化を見せる。そういうとき、具体的ではないけれど、少なくとも変化を受け入れ現実の壁に向き合う姿勢がある。それが、結局彼等のロマンティックとも取れる『愛』の形なんだな。

 俺の世界は裕城を中心に回っている。裕城の世界も俺を中心に回っている。だからといって、決して閉ざされてるわけじゃない。俺たちの世界は、他の世界にもつながっているのだ。

それぞれの将来も含めた現実の未来。そこには、彼等のお互いを中心とした世界観、生き方と意思が育まれている。そうした中、彼等の愛は、少しずつ変わるのかもしれない。けれど、それは彼等がお互いを想い合う形での愛であり続けるんだよね。