両性愛。人間のグラフィティ〜。

これは素敵。久しぶりにコミックスですが是非オススメ。最近当たりコミックスが多いです。
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(今回密林で画像がないので楽天。)

夜空に輝く無数の星からみつけた。
迷うことなくあなたに繋がるように。
これは恋、かな。

あらすじ

男にも女にもだらしない甲斐性無しの秀吾が出会ってしまったのは元カノ(現:友達)の父親。ありえない!と秀吾の警笛が鳴り響くが、気持ちは止められず。この恋はホンモノ…?
人気連載中の「ポラリスベル」シリーズ。星と人を繋ぐ4編とデビュー作品を収録。せつない恋心を優しく描いたテラシマ待望のファーストコミックス。


この作品は東京漫画社のマーブルコミック。さすがこの社はBL的に異常な嗅覚を持っていると評判だけあって、素晴らしい作家さんを発掘なさった。

んでも、カバー裏のコミックにはぶったまげた。東京漫画社ではやっぱり年齢制限設けてないんだね?!(でも下は15まで。)75歳の親父イイじゃないさ!←て、本編のキャラは75までは行かないと思うけどね。
あと、なんかね、作家さんの友達が、「なんでBLなのに女の子出てるの?」とか聞いてきたらしい。お、恐ろしい。しかも「女の子居るのになんでホモなの?」とか・・・。
おま、女の子が一切出てこないようなホモソーシャリティでしかホモセクシュアルは成り立たないってか?そのヘテロ的な自信はどこからやってくる・・・。
あと、苦言。
「オホモダチ」という侮蔑の言葉をむやみやたらに多用するな。(面白くもなんともないわ。)製作サイドももう少しそこらへん考えろ。

(以下ネタバレ注意。)

これはね、どっちか言うと人間ドラマを描いたオムニバスストーリーで仕上がってるって感じなのね。星のことと人間関係だとかをたとえながらセンチメンタルに人情や恋情を描く。
ポラリス北極星) そしてどっちか言うと、これは両性愛の物語になると思う。
絵も可愛らしく、それぞれのキャラクタの心情をとても細やかに描いた秀作だ。というか、各キャラクタの葛藤や混沌とした複雑な心情こそがメイン。それぞれに重みがあって、それを一応はBLで描いてくれたのには非常に感嘆。

このコミックスは表題作ポラリスベルシリーズが4話構成で、そのひとつひとつが各キャラクタ視点で進む形式。一話ごとに主人公が違うのね。そして、最後に別の短編が一本と云う内容。
では、簡単にポラリスベルシリーズのキャラクタ紹介。

野島秀吾: 最初の主人公。(一応全体てしても主人公)バイセクシュアルで、飄々とした性格で裏表がない。でもちょっとバカで奔放な人。セックスに抵抗感なしっ子。人間好き。親友のふたりと仲良し。

早川啓介: 二番目の主人公。幼馴染のトーコの元彼、秀吾と友達。修吾と一回だけ寝てしまったことを過去の事件として封印したがってるけど、ふとした会話の中で秀吾にそれを持ち上げられて困ったり…。なんだかんだ言って友達思いのいい奴。トーコに片思いをしている。

久我山燈子: 三番目の主人公。ケイスケと幼馴染。秀吾とかつて付き合っていたが、秀吾の(ケイスケとの)浮気で別れる。車掌を務める片親の父を持ち、親思い。気持ちはまっすぐなんだけど、少しテンぱると無茶しちゃう人。別れたが、秀吾に片思いをしている。

久我山父(名前が;): 四番目の主人公。トーコの親。冷静で落ち着いた感じのナイスグレー。知的で、趣味で天文学に長けている。そのことで、秀吾と文通(天文学レクチャー)をやるようになる。妻を亡くした後、娘を思ってか、再婚をしなかった。今でも妻を愛しており家族思い。


秀吾は、トーコと付き合ってて、でもケイスケともセックスしちゃって、その後も三人は友達としてトリオみたいな突っ込み合いをしてたりする。バイセクシュアルの秀吾は誰とでも寝る奴。そんなやつと一度は関係を持ってしまって「兄妹になっちゃった」と後悔してるんだけど仲良し。(ところで、共通の人と寝たからってなんで兄妹になるの?)
そんな秀吾が恋をした。

ポラリス?」
北極星だよ 二等星の星だけど動かないから方角を知る目的になる」
「えー地味じゃん」
「地味でも目印になればいい 私たちが運ぶ人達が迷わないように」
その声は、 心に、胸に、やさしく溶けた。
なんで なんでかな 人なんかこんなにいっぱいいるのに なんで、わかっちゃうんだろう
警笛が聞こえる あなたから聞こえる
ポラリス二等星の星 けれど かつて遠い昔から それさえあれば そう、迷うこともないだろう
[…]
(…これは恋かな)
どうかな、恋かな だめかな 無理かな、恋かな これは恋かな、
(恋だな 恋だ)
もう、迷うこともないだろう

この話は秀吾の恋を中心に、彼等の繊細で複雑な心情が緻密に描かれてある。私なんかここまでよく書くよなぁと思う。恋愛ムードと云うよりは、恋愛も含めて、4人の人間が折り重なるときそこに浮かぶ温かで穏やかな、しかし一面的ではない人間的な時間が主軸。人間ドラマって感じです。
メインキャラはあくまで秀吾。でも、各話ごとに各キャラクタ視点で、悩みや人間的な弱さや希望、人生としての重みを坦々と描いており、そこに星空の幻想的なテイストを加えた情緒的な秀作。
それぞれの恋にちゃんと焦点を当てて、4人のキャラクタ性が織り交ざるそのストーリーが魅力的だ。BLなので、BLから逸脱したような愛を描くのは実は禁物だと思うけれど、非常にバランスが良く取れてある。


何がいいって、素敵にBLらしさをやんわりと薄らいでおいて、そこにしっかりとそれぞれの性や人間模様を描写した姿勢。もはやBLと言っていいのかわからない。(けれど、それもBLの幅の広さなのだろう。)
ここにあるのは、BLロマンスではなく(というか両性愛)、現実的な今日と昨日と明日という坦々と流れる時間軸に見える、人と人との繋がりだ。その繋がりに心穏やかな気持ちにさせられる。しかし切なさも誘うストーリーになっており、読み応えがすごくある。(特に最後なんか人との接点を重視したお話で素敵。)鉄道会社の事や天体のことも詳しく書かれており、ストーリーに厚みがある。映画にしたら面白いだろうなぁと思った。人間味を味わうことの出来るこの作品は、最後まで徹底して結末と云うものを提示しない。(まだ連載中だけど。)
そこにある人々の人間性、心情が、どのようにして人生と云う未知数の道標を行くか。そういうことをテーマにしたような印象だ。

星のように生きる人々。彼等の明日を思うと、何故か心のどこかがジンと熱くなる。結び合わない恋や失った気持ちと相手、そして自分と誰かの繋がりを想う人の心の深さ。そういうものがしみじみと伝わる柔らかなお話。


最後の短編は、唯一BLとしてカプが出来ている。(高校生とスランプ中の美術家。)
けれど、これも人生の中の迷いや悲しみ、そして重み。そういうものを中心に描いており、だからこそこのコミックスのキャラクタが織り成す人間模様と恋は見るものに訴えるものがある。
人間ドラマとしてのBL。とても美味しゅうございました。皆様も一度お試しあれ。