「恋愛は至上の物である。」
- 作者: 藤たまき
- 出版社/メーカー: 新書館
- 発売日: 2006/07/29
- メディア: コミック
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あらすじ。
戒は同性である諭と幸せな恋人同士。だがかつて戒はゲイの弟に、ゲイの恋愛なんて不幸になると罵詈雑言を浴びせた事がある。その時、弟から、その言葉は戒にそのまま返ると予言された。言霊に怯える戒だが……。表題作含む四篇を収録。怖くて甘い『謎』を抱える青年たちの恋愛を描いたミステリアス·ラヴ短篇集。
帯
どうか心の秘密を教えておくれ。
謎めく僕の恋人よ――・・・。勾玉、不思議な水、ショートスリーパー、言霊・・・・・・。
怖くて甘い『謎』こそが、恋愛に永遠をもたらす極上のスパイス。
表題作含む四篇を収録した、藤たまきのミステリアス・ラブ短篇集!!
ゲイアイデンティティーを描いている?それは表面的な「ゲイ」描写であるのか。本質的な「ゲイ」イメージの提示なのか??
恋愛の本質化。それは恋愛至上や恋愛中心主義か?しかし、
ミステリ、という撹乱的な要素を用いる事で、恋愛というものの実態と実体を、いかように提示する表現なのか、一筋縄の解釈が出来ない。
信仰と恋愛。ミステリと情熱。
ゲイ〜ヘテロ間の狭間に、これらの要素がどう組み込まれてあるのか。それはゲイの“本質”を規定するものなのか。恋愛というものが、ゲイやマイノリティを取り巻く現場を不思議な次元に迷い込ませてある。
臆病な受けと、情熱的な語り。
こんな事くらいでせつなくてあやうく泣くところなんだから 恋愛ってスゴイ恋愛って恐ろしい
「恋愛は素敵で至上な物だって事を俺に教えてくれたんだよ」
彼等の言うところの「恋愛」の本質はどこなのか?本質を描くのか?しかし、その表現はあくまで恋愛という事象の顛末を実写的に映し出した表現であるのか?
「時には美しい恋のような地に足の着かない事もいい」
睡眠それは生理現象 不可抗力で 自分の意思ではどうする事もできないのだ
「お前―・・・何で眠らないの」
[・・・]
「そーゆーの理解できない 生理的にダメだ」
生理的にダメ、ときたもんだ それは不可抗力で 歩み寄る隙間もない
この「ショートスリーパー」は、「ゲイ」に可換か?
ミステリがストーリーにひねりを与え、恋愛に対しあやふやで深い意味を与える。
あくまで作品は「男を愛する者」をゲイの領域として描き、ゲイがストーリーの中で、そのセクシュアリティを“ゲイとして”しっかり体現している。つまり、一種のBLの“セクシュアリティのなさ”という磁場を用いない部分が、ある。そこでは、ゲイとヘテロの明確な境界は維持されてある。
しかし、BLに特有な、情動が「恋愛」や「ゲイ」という記号をかく乱的にズラす表現も、あるように思う。というより、実際に「恋愛・ゲイ」といった欲望を率直に描くことにより、「恋愛・ゲイ」への語りを(単なる事実としてではなく)私達の“まなざし”そのものであることの気付きを促すようなものにさえ見えてくる。つまり、ゲイというものも、恋愛というものも、私達が日常的に語ることで構築される経験的なものであることの気付き。それは、恋愛ゲイの“本質”を描くこと逆の向きではないか。
それは恋愛とゲイを実写的に描く試みにより可能となる、ズラしであるように思う。しかし、作品が意図するものはあくまでロマンチックな愛の物語である。その世界観の中で、「ゲイと恋愛はこういうものだ!」とする本質への回帰は、ある。あるものの、それは読者に、恋愛やゲイが社会的にどのように位置づけられてあるのかのジェンダー分析のような読みを可能にしてある・・・ようにも思う。
その情熱的な描きが、私という読者に何の感動を与えてあるのか・・・。
これは非常に興味深い作風である。