「男」が抱えるジレンマと、男同士の欲望。

う〜ん、これは私から見ればとってもわかりやすいBL式な男同士の欲望でした!

一巻のあらすじ。

友坂が親友の野田に恋していると気づいたのは、ほんのちょっとしたことがきっかけだった。
いつから好きになっていたのかはわからない。
好きな人がいて、だけど、気持ちを告げることはできない。
……親友だから。
友情と恋愛。
境界線ギリギリ
のラブストーリー。

二巻のあらすじ。

お前と友達でいたいんだよ―
親友としての一線を一度は越えたものの、友情を大事にしたいと自分から野田に告げた友坂だが、野田への想いを押し殺すことに苦しくなる。
今まで通りになんてできるわけがない、傷つく友坂に、野田の想いは次第に変化していき…
友情と愛情、その狭間にあるものは?

正にこのあらすじ通りの作品です。黒字部分は私が強調しました。

帯。一巻。表と裏。

キスはしなかった できなかった だって、俺たち友達だし
昨日も 今日も 明日も――ずっと

お前 俺とセックスしたいと思うか?
どうしてもってんなら 友情の力で 一回くらい できそうよ?
男とセックスしたって 世界が崩壊するわけでもないのに 何がそんなに怖いのかな?

二巻目の表と裏。

目を見て
肩に触れて
腕に…手に…
そんな簡単なことにも意識して
心臓が破れそうだ

友達でいる以外 他にどんな方法があるんですか?

BLレビュー。

ストーリー的には、ただ単に、友達だった二人が次第にその関係を異なる関係にしていって、そして二人の想いが通じ合う、ていうパターンなBLなんですが。その繊細な心理描写が痛々しいくらい、すばらしくキレてましたね。友情から愛情に変わる瞬間を読みたい私としては、とても丁寧な描写で美味しかったです。ただ、その漂うセンシティブな作風は、好みが分かれるかも。弱い、と感じる人もいれば、痛い、と感じる人もいるかも。でも、BL読みなら、これは読んでてほしい一品。(ていうか野田が私好みのメガネで、もう…orz

ネタバレは折る也よ。(そして長いよ)


昔から親友としての確かな絆を築いてきた二人。実は二人は厚い信頼関係にあるのですね。

なのですが、唐突に友坂は恋を自覚します。

「最近ねーじゃん こーゆーの」
「お前が女にかまけてるからだろ」
「そーでもないぜ 俺は友情を大事にするんだぜ だから友坂の方が大事よ?」
「―… バーカ」
笑いながら 胸の奥で なにかが ぐしゃりとつぶれて
[…]
苦しくて苦しくて 結局 その夜は眠れなかった
そうしてやっと気付いた
俺は野田に ―恋をしていたのだ

俺… いつまでお前と友達でいれんだろう

で、友坂のバイト先では、自分にセクハラをする店長がいます。店長にアプローチかけられる友坂。そしてひょんなことから、その店長に「君―彼(野田)のこと好きだろう」と指摘され、怯えだして明らかに動揺する友坂。

そして傷心の野田と友坂が会話してるシーン。

「友坂ってさホント他人の詮索しないよな だから俺お前のこと好き」
詮索……しないんじゃない
ホントのコトを知りたくないだけだ
「そっか」
「そだよ」
「別に…そんなコトも…」
―――だからやめてくれ 気軽に 好きなんて言葉―
[…]
「(こういうの何つーんだっけ あれだよあれ 厚い友情つーの?)」
―友情って便利な言葉だ
信頼も愛情もそれで全部片がつく

友坂は、その全部一纏めにしてしまう実は危うい「友達」という境界線を、揺るがしてしまっている。自分の情動が境界線を裏切る。
そしてそれに苦悩する。揺らぐことを、とてもとても、怖れている。

次に、店長と友坂のやり取り。

「な…なんですか?」
「友坂君 今度僕とセックスしてみよう」
「は?」
「セックスだよ」
「何を言って」
「きっと気持ちいよ」
「いっ…」
「男とセックスしたって世界が崩壊するワケでもないのに なにがそんなに怖いのかな?」

友坂は怖れている。なにがそんなに怖いのか。野田とセックスしたいと思う事かもしれない。それはとても危険なことだったから。

私が思うに、それは同性愛自体を怖れてるというだけではなく、野田から嫌われる事を怖れてるだけでもなく、まず何より、かつて確かだと思っていた野田との友達という境界線が(恋人という境界線との間で)揺らぐことを、怖れていたのではないか。わかりやすい意味での「ホモフォビア」だけでは、何か説明できない恐怖が、そこにはないだろうか?絆の崩壊とでも言うような…。

再び野田と友坂のシーン。

「お前…何かされたのか?」
「セックスせまられた」
[…]
「大丈夫か?バイト辞めた方がいいんじゃね」
「ははは いやーたぶん冗談だって からかわれてるだけだよ」
「バッカ ケツ掘られてからじゃ遅いんだぜ」
「だーからねーって 考えてもみろよ お前 俺とセックスしたいと思うか」
「いや…それは」
「思わねーだろ?」

と、酷く冷めた表情で野田に問う友坂。(境界線の確認)
しかしそれは、自分に正直な野田によって、否定される。

「そらま 積極的にしたいとは思わんけど でも俺 お前なら平気かも どうしてもってんなら 友情の力で一回くらい できそうよ」
友情って便利な言葉だ
信頼も 愛情も すべて それで
「よせよバーカ 俺がやだよ」
「あっそう?」
―――片がつく

しかし友坂は、友情のセックスを拒む。
それから友坂は自分の友情を疑いだす。なのに、野田はその揺らぎをよそに、友坂を*受け入れ*ようとする。それに戸惑う友坂。

キスはできなかった
「帰る」
だって 俺達友達だし

二人は微妙に擦れ違っている。しかし、友坂にあくまでこれからも友達でいたいと言われたことで(ずっと傍にいたかったのだと思う)、野田も「友達でいたい」という気持ちに揺らぎが生まれだす。友情という境界線では括れない想いが、友達でいることを危うくさせるからね。
そして野田は、問題は、友坂が自分を好きなことだ、と思う。ここで野田は友坂の想いに向き合う事になる。


二人の恋は、お互いが男である事が障害と言える。しかしそれは表面的な物言いで、実際の問題は、男同士には友情しか許されていない、というホモソーシャリティの法則(?)が障害なんだ。友坂は野田を好きになっても、ホモソーシャリティで築かれた男同士の絆(の法則性)によって、「男の野田とは、友情でしか結ばれることは、ない」と思い苦悩してる。(と私は思う)

「だ…ってどうしようもないじゃないですか 友達でいる以外 他にどんな方法があるんですか!?」

友坂の苦悩は、この社会ではいわば宿命的なものだったと思う。密な友情であればあるほど、彼の抱えた想いはその信頼関係を崩壊させることに他ならない(ことになっている)ものなんだから。(男同士の絆は、ホモセクシュアルになってはいけない!)
ずっと傍にいたい。けれど、その想いを表に出せば、その関係を保障してくれる法則性がどこにも見当たらない。これが同性愛の友情と愛情間のジレンマだと思う。
BLでは、そこらへんよくスポイル(?)させちゃうけど。でも、この作品はそれをしない。

しかし、今まで通りにい続けるのは当然無理がある。
無理に押し隠したまま男同士の絆だけを維持するのは、難しい。

野田は友坂に「お前は何が欲しいんだ」と問うが、野田自身もわかってないんじゃないか。たぶん、わかってるのは、「ずっと変わらない毎日」が続いて欲しいと祈ってること。
んー、と。たぶん、二人は昔の時点で相思相愛だったんだと思う。ただ、それが友達という関係だっただけで。
ここにも依存の関係があるけど、それを頼りに二人は<新たな関係>になろうと歩み寄る。想い合ってたのは昔も今も同じはずだから、ちょっとその距離を変えてみれば良いだけのはず。自分の想いに正直になればいい。

「俺 うまくいくことも考えてなかったけど… ダメになることも考えてなかった 前も後ろも見ないでただ立ち止まってうろたえてバカみたいに――」

特徴的なのは、(浮気を半ば嫌ってるものの)最後まで、ハイ、これで恋人になりました!ていうことは一切言っていないこと。二人とも、互いを友達だと思っている…。

これからも友達でいたいと思う。
大人になっても
共にいられなくなっても
それはウソじゃない
このどうしようもない気持ちと同じで

結局ボーダー越えしたんだかしてないんだかわからないけど、これはこれで非常にBLらしい気が私はしたなぁ。



更に対照的なのは、店長のほうの恋。彼も友坂と同じで、ある男を想っていても、それは恋人の形ではなく、それでも傍に居ることを選んでいる。しかも、相手は家庭のある男で、それを見守り続けようとしているという関係!
店長の想い人が尋ねる。

「なあ もし地球が滅亡したとしたら箱舟に誰をひとりだけ乗せる?」
「そうだな お前以外だな」
「ひどいなぁ 
俺はお前を選ぶよ 見捨てた人々の為に身を引き裂かれるような後悔をしても 俺はお前の手を取ろう」

[…]
箱舟なんて この世にないのに

形としては、彼らは結ばれていない。けれど、その絆は誰よりも固いように読める。


あー、こういうの好き。複雑な欲望の描写が、とても魅力的だと感じた。
さり気に同性愛のリアリティと問題に触れているし、やっぱりBLは腐女子だけの読み物と限定するのは惜しいよ、あたしゃ。