BLにエンパワメントされたい私。

あのねー〜、

夏色男子 (アクアコミックス) (オークラコミックス)

夏色男子 (アクアコミックス) (オークラコミックス)

可愛すぎるんですけど!?
あらすじ。

椎名智之が出会った同じ苗字を持つ“友達”それが知奈葵だった。
内気な自分とは違い自由奔放な葵に戸惑う智之だったが、次第に彼の優しさに触れ智之の心は開かれてゆく。
けれども、ある出来事を機に葵に対する想いが友情以上であることに気付く。親友として「好きだ」という葵に、友達で居続けることを誓う智之だったが…。
高校生男子の甘酸っぱい初恋を描く表題作・他2編を含むピュアラブ・ストーリーたっぷりv文月ナナ初コミックス!

お話は本当あらすじ通りピュアで、やっぱり高校生はいいなぁ。と思える素敵作品でした。今月で一番かも。

BLレビュー。

もうね、本当表情がイイの!皆青春してるね!て感じに、喜びも戸惑いも苦渋も、それぞれにすごく素敵な表情をするんです。キャラがとってもおいしいので、特に高校生スキーさんには絶対オススメ。しかも、エロがすごいドキドキものでして、興奮するというよりも胸キュンキュンして気持ちが昂ぶる、みたいな感じ。てかHしてなくても、こっち既にハァハァものです…。
3カップル出てくるんですが、皆同じ高校の男の子たちです。皆高校生男子感バリバリで可愛いんだけど、表題作の受けは「内気」というほどまでは硬いイメージでもなくって、最後メロメロになる攻めの気持ちがわかるくらいキュートな照れ屋さん。攻めも、一見ただの元気な高校生ってだけなんだけど(それもイイ)、ストレートに気持ちをぶつける青春小僧!
次のカップルも面白くって、攻めがモテモテ系なのに、実は変人臭さ漂ってて素敵〜。辞書に悪戯してそれを隣の人に見咎められてるシーンがすごい笑ったw てか「イメトレ」ってなんだよー。
次のカップルも、美人強気受けの先輩とバカなヘタレ攻めの漫才が萌えたー。


表題作なんだけど、テンポが絶妙に美味しい。というのも、コレ、おそらくシナリオをあと少しでも急ピッチに進めてたら、朴訥な「友情から恋」ストーリーにしかならなかっただろうから。
たとえばね、なぜか唐突に相手にキスしてしまって、それから、更に謎なことに雪崩のようなスピィーディーさで恋に落ちるパターンというのはよくあるんですね。けど、本作の攻めが「そうか、俺はお前が好きなのか!」と気付くそのタイミングが早すぎず、それゆえに受けと攻めのリリカルな情動(変化)が伝わってきて楽しめるという…。そう、そこを読みたいんだよ!嗚呼、恋はタイミングが大事なのね…なんて。
あとあと、最後の話の、葵が、彼女だった峰岸と智之の二人に切なさを覚えるシーンが好き!

以下ネタバレ。

nodada's eye

「でも智之が男でよかったけど」
「ははっ なんで?」
「男だったらずっと友達でいられんだろ? それってすっげえよくね?」

「…… そうだな」

智之はふとしたきっかけで葵に恋してると気付く。けれど葵には素敵な彼女ができてラブラブで、しかも親友として信頼されてしまってるので、気持ちを押さえ込むしかなくなって苦しむのね。
でも、本当の気持ちをわかってくれない葵に、つい智之はキスをしてしまう。

大切な友達だったのに自分が壊した なんであんな事してしまったんだろう 失ったものが大きすぎる
せめて 葵から避けられる前に 自分から距離をおこう
これ以上 傷つきたくない

でも、智之にキスまでされてるのに、葵は関係を修復しようと歩み寄る。誰より信頼していて大事な人だから離れがたいのね。けれど、そこでは友情とか愛情とかが上手く分け隔てられなくなった微妙な領域が生まれてるので、何も知らない気付いてない頃には、もう戻れないはずだと思う。それはきっと嘘くさく、よそよそしいものにならざるを得ないだろう。

智之は たまにすごくかわいく見える
たぶん普通のかわいいは峰岸みたいなふわふわして小さくて高い声で笑う女の子を言うんだと思う
実際 峰岸はすごくかわいい ふられたけど
もちろん智之は峰岸とは全然違うんだけど なんか別のかわいさがある
例えば こんな
「(あ スゲー赤くなってる 耳まで)」
こんな時 いつもみたいに触っちゃいけないような気がする……
「(たぶん俺も赤い)」

葵は、親友だと思って触れていた時に突然智之にキスされても「嫌だとは思わなかった自分に驚いた」と言っている。「嫌だと思わな」い自分は、その時から既にあったのね。
ともあれ、智之に避けられる前は何の疑いもなく親友であった。けれど、キスされてから関係を修復しようと試みた時にそれは綻び、葵の中で智之への“近しさ”の内実が微妙に摩り替わり、どこかで「友情」を逸脱してしまっている。距離を置く前とその後でも、本人の気持ちの違いが実は明確でないことが、興味深いと思う。(つまり、まるで葵は親友と思っていた時点で既に智之に恋していたかのように見えるのね)
親友という恣意的な境界線の有効性が薄れている。それは、男同士の絆がホモセクシュアルな領域に踏み込む『危険性』を指す。
ホモセクシュアルを遺棄する「男だからずっと友達でいられる」親友のポストは、こうしてその恣意性を揺るがされる。しかし、葵はあくまで親友として(!)関係を修復しようと試みるわけだ。


その後別れたはずの彼女が智之の前に現れ、その修復したはずの関係に、実際に亀裂が入り始める。すると、葵は正に唐突に気づくのだ。
智之が一人で教室に居るところからのシーン。

今頃は二人で帰ったりしてるんだろうな
あの荷台はもう俺の特等席じゃなくなるのか これでよかったんだ 俺は葵の友達なんだから

そして葵の惑いと、その気付き。

「なんで なんで峰岸の応援なんかできるわけ ………… いやそれはいいのか いや よくねえよ なんかムカつくんだよ でもなんでムカつくんだよ ムカつくもんはムカつくんだよ あーーーー何言ってんだ俺 自分でも何言ってんのかわかんねえ なんでこんなムキになってんだよ…
[…]
「…………」
「………… ……あ そっか 俺 おまえが好きだからムカついてんのか」

ここでパー璧にその絆は、男同士の欲望としての形を変えちゃうのね。


次の引用は、葵達の友達である慎太郎と、その想い人の遙先輩のお話。慎太郎はなんか知らんけど、イケメン先輩を最初女の子と間違っちゃうのだけど。

さっ…三年!? つか おっ…男???!?
「……」
ガーン
淡く夢見た俺のラブライフが一日で終了
「………」
―…いや 男だからって愛する気持ちを失うのか?
否!!俺はもっとでかい男だ慎太郎!! 男なんて愛の前では大した問題じゃねえっ!
男な部分も愛して見せます!! 遙先輩!!! 俺の心は宇宙より広いぜ!!

えらいぞ、慎太郎!おまえこそ男の中の男だ!

「俺!! 遙先輩の事大好きっス」
「……… ああそう だから?」
「(あ、あれ?)そうか!!男が男に好きって言っても ラブじゃなくてライクにとられるのか!!」

「慎太郎ってつくづく遙先輩好きだよなー」
「愚問」
「なんか憧れ越えて愛みてえじゃん」
「愛だもんよ」


とまあ、彼ら攻めたんは、見事軽やかにホモセクシュアルな男同士の欲望を抱いてみせるのです。ホモセクシュアルは排斥しなければならない男同士の絆(友情とか?)は何処吹く風。
この軽やかさは、なかなか私的には乙なものなんだよねー。



…こんなのはあっちブログで書くべきなのかもしれないけれど、ついでだしこっちで書く。
私はね、こういう、現実的社会的な同性愛への抑圧をなかったかのように描く表現は、ある意味問題性のある読者の欲望を看過してしまう危険もある、とは思う。
けれど、それでも私はBLのこういう軽やかさにパワーをもらえる時も、あるのね。

私は、たとえ仲の良い(故に私を詳しく知る)友達との会話の中でさえ、ホモフォビックな日常に疲弊するのだけれど。そういう環境下では、私にあるはずの同性愛への肯定的なパワーは、どこかに置き去りがちなのよ。
というか、肯定的にイメージするのがなかなか出来ないというか、そういうイメージを保つモチベーションさえ落ちがちなのね。そういう時、私はこういうBLの、良くも悪くも軽いタッチで描かれる世界観に、ホモフォビックな価値感を笑い飛ばすパワーを少しだけ分けてもらってる気がする。
それがいいことなのか悪いことなのか反省吟味はしなければならないよなぁとは思いつつも、BLの軽さに、何かしらの“肯定的にイマジネーションするパワー”を育まれていったかもしれない自分もいるよなぁ、とも思うのね。

そして、BLに出てくるキャラ(今回は主に攻め)の軽さに、何かしらの希望を見出したい私もいる。
偉そうな事を言ってても、現実の生活では私はここまで軽やかに同性愛の欲望を持つことが、なかなか出来ない。
いや、しかし、虚構の中では、それはただの現実逃避かもしれない。なのだけど。


勝手な欲望ではあるけれど萌えという名の表現(欲望)にも、対象を肯定する方法が仮にあるのだとしたら、「萌えの為に邪魔になるホモフォビックで規範的な体制なんか、軽く無視しちゃえ!」という事が起こる可能性も、なくもないかな???とは思う。(すごい楽観的でナイーブな考えではあるけど。)

少なくとも、私という一人の同性愛の欲望を持つ者が、(もしか事実ではなかったとしても)BLによって肯定的なイメージを勝手に読み取ったり、勝手にパワーを貰う、ということも、していいはずだ。そこに何かしらの危険な(表象暴力的な)欲望も生まれているかもしれない。しかし、それらの反省とBLからの享受の間で、私が私を考え、私を支えていく、というのもありえてもいいはずだ、とも思うわけです。<なんか無駄に壮大な宣言。

んー、なんか無駄に傾倒しすぎかもしれない。あーでもね、物々しい言い方をしてしまったけれど、実は割と簡単な話ではあるんだけどね。