風景ごとの彼ら。

セブンデイズ―MONDAY→THURSDAY (ミリオンコミックス 42 CRAFT SERIES 22)

セブンデイズ―MONDAY→THURSDAY (ミリオンコミックス 42 CRAFT SERIES 22)

この表紙を描いてくれるBL漫画家はそういない。
あらすじ。

「俺とつきあってよ 芹生」高校三年の篠 弓弦は、月曜日の朝、弓道部の後輩である芹生冬至と校門で出逢う。学年を問わず女生徒に人気の芹生は月曜日の一番最初に告白してきた相手と必ずつきあい、週末に必ず別れると噂されている。一週間限定の恋人── 弓弦の軽い気持ちから出た一言でつきあうことになったふたりだが…

帯。

彼と彼の、一週間限定の、恋が始まる―――

今度こそ、好きになれるだろうか
いつだって 週のはじめにはそう期待する なのに

元々買う予定だったけど、この帯に更に煽られた。

BLレビュー。

この作品は原作付きなのだけど(やべー、一度も橘紅緒読んだことねー)、この作品は雰囲気とか空気で殺す感じ。殺すって言うのもどうかと思うけど、この二人の作家さんの組み合わせがとてもマッチしてて素敵ムード漂ってます。
なんだろう。クラシカルな演目を順々に流してくれているような雰囲気を楽しめて、大変美味しい一冊となっております。(<テレホンショッピング的に)


で、特筆すべきなのがやっぱり宝井理人さんの風景描写だと思う。
えーと、こういうの載っけてイイのかわからないので、「宝井理人」(サイト名 Licht)で各自検索掛けてほしいのだけど、もうこの方のイラストがバカみたいに麗しくって、どれも見とれずにはいられないのです。
原作者いわく「緻密でシャープな絵」なんだけど、それがアンニュイな高校生生活(ちなみに女子率の高い元お嬢様高校が舞台)と相俟ってなかなか美味しいんだよなぁ…。

ここでちょっと余談。えのもと椿の絶版本(復刊されてたかな)の中に、BL漫画投稿にあたってのアドバイス(の漫画)があったのだけど、キャラクタがコマの中での主人公なのだから風景の線と同じ描き方をしてはいけない、キャラクタこそを強い主線で描くべきという法則がある。
それは確かにそうなんだけどね。漫画に限らず実際の私たちの目も、自分が意識して見ようとしているものに知覚が集中するわけで、その焦点に当たったもの中心が、より正確な線で脳内で映像化される(らしい)。だから漫画もその法則に従うのはいたってまとも。
なのだけど、それでも風景というものを、…ただの舞台装置というか、まるで張りぼてな大道具にしてしまわない風景描写とそうでない描写があると思う。
この作品は、どっちかといえば、やっぱり「そうでない」方だと思う。


私はね、風景とキャラクタというものを、調和された一つの絵として描いてくれる漫画がすきなのよ。キャラクタを風景に負けない強い線で描いて風景と一味違うものとして分離させるのも漫画的手法だけど、私はそうではなくて、風景の中にいる彼ら、風景と混じってそこに立っている(生きている)彼らを読みたいのね。
やっぱり漫画の世界観を支えるのは、それなりのクオリティある風景だと思うのだけど、そういうのがあると映画的な効果があってより面白くなると思う。

で、私はまだ満足まではしないのだけど、この作品にも「風景ごとの彼ら」というものがあるんだと思う(ネコだらけのラーメン店ってイイよね)。次回からも、より青春って感じの情景を描いてほしいな。そして、人々の生々しさと風景をマッチさせて、相乗効果で伝わる情感のある世界観を提示してほしい。


以下ネタバレ。

なんとこの作品は(雑誌が季刊なので)一週間の物語を3年くらいかけて描くことになるらしい。で、この一巻目は、攻めの芹生の巻だと思う。
なんだろうね。この攻めはドライ(クール?)なようでイノセンス。受けの弓弦は、一見ストイックなのに、中身はお嬢様たちの理想像・王子様なんかではなくて、奔放でありつつどこか繊細なネコ。
なんか似てるような気がするよ、彼ら。
で、一巻目は、この攻めの方の変化が目立つのよね。受けの方にも変化はあるのだけど、多分それが目に見えて明らかになるのは週の後半になってからだと思われ。それが楽しみ〜。
この攻めはねー。要するに自分の兄の恋人に片恋をしていて、その相手を振り切るために、より好きになれる人を本気で探してるのよ。そしてそのための期間を一週間と定めていて、そのスタンスを「短すぎるとは思わない」人なのね。
そして受けはそれをちゃんとわかってなくて、自分が冗談で言った「付き合おう」の一言に攻めが本気なのを途中まで気付かなくて、気付いたら気づいたで「そういうことなら楽しんじゃうよ、俺は」と言って「お付き合い」するような子。お遊び感覚なのね。
ここでは二人が擦れ違っているのよ。
これが今後変わっていったら、と想像すると中々面白い。
この攻め、実はかなり美味しい年下攻めになるんじゃないかと思うわけよ。攻めは好きな気持ちを自覚していけば、受けへの接し方も変わってくるだろう。受けも今後芽生えた気持ちで、変わってくるだろうと思われる。
そうしたらこのどこか繊細な、しかし奔放なネコを、攻めがどう懐柔していくかという期待が膨らむ。攻めはけっこう尽くすタイプだし、思い遣りのある子だ。ネコが尽くされ溺愛され、どう変わっていくのか…。 きっとこの攻めは素敵年下攻めに化けると思うんだわ!それに期待しちゃうー。

メモ。

この受けはね…、付き合ってる後輩君にけっこう驕ってもらってるのよ。

「ふふ 見かけによらず甲斐甲斐しいねぇ」
「え 俺?」
「そう 俺もう昨日と今日とでだいぶ驕らせちったし コレとか」
「それは別に―― 普通でしょ つきあってたら」

(「コレ」とはジュースのこと)

えーと。

攻めが受けを映画に誘っていて、「驕るよ」と言っているシーン。

「おごるって…なんで」
「え?」
「おごってもらう理由なんてねぇじゃん」
「え… だって俺から誘ってるし…(あれ?)」
「お前 誰か誘うたびに金払ってるワケ?」
「いやそーゆーわけじゃないけど!(あれ?)」
「じゃあ俺もおごられる必要ねぇだろ 自分で変だと思わねぇのかよ んな女誘うみたいにさ」

この違いは何…?


もう一個メモ。
デートスポットに来た彼らのシーン。

「オカコー来たの久しぶりなんだよねー俺 相変わらずバカップルばかりな あ 俺らもか」
「ふ そうだよ」
「ははっ なー」

そしてバカップルと同様にキスをする彼ら。ふむふむ。