見えない壁はすでに越えていた。

うわぁ、これ素敵〜!

3軒隣の遠い人 (キャラコミックス)

3軒隣の遠い人 (キャラコミックス)

あらすじ。

3歳年上の幼馴染みと、10年ぶりに再会!?
サラリーマンの光也が転勤先のアパートで隣人になったのは、兄の親友で初恋の人・昇!!
中学生3年生の時に強引にキスをして以来、昇に避けられ続けていた光也。それをずっと後悔していたのに、昇といると唇の感触を思い出しては封印した思いを募らせて――!?

うーん、なんか微妙にずれるあらすじだなぁ。

BLレビュー。

幼馴染みモノ。ブラコンと近所のお兄さんへの恋慕。年下攻め。初恋モノ。再会モノ。なんだか色んな美味しい要素がつまってます。それぞれのテイストがぎゅうっと美味しく搾られてると感じました!萌えるわぁ〜。
ところで、左の白髪っぽい人が攻め。私の基準だとすごく美人さんなんだけど、受けもスマートな美人さんですね。美人美人。
で、もう攻めがすごい良かったです。セクシーだし個性的だし(妙に生活感あるよなぁ)、私の中でツタさん最高傑作かもしれない。攻めが子供から大人になるまでの空白も、なんか(世渡り面とかで)イメージついちゃって・・・、楽しかったー。

そもそも私攻め視点が好きなんです。で、この攻めの美味しいところは、(クールに見えるけれど)一人ですごいグルグル揺れ動いているところなのですよ。一見能面キャラで感情の起伏なんか乏しそうなんだけど、一番ピュア(無垢)な人かもしれません。だけど、そこはツタさんの描く攻めなので、そこそこ嫌な子なんです。あまり可愛いとばかり言えない。ええ。 なのだけど、だからこそ掘り下げがいがあるという・・・。攻めの揺れ動く心理描写が良かったです。

で、ここでやっぱり変わってると思うのが、脇役キャラに対しても恋愛のフラグを立てるところです。「え?じゃあこっちとくっ付くの?」と思いきや、それは実は伏線で、脇キャラとの新たな恋の兆しにさえも(攻めの)お兄さんの陰を匂わせることで、「初恋は叶わない」というお約束(呪い?)のパターンを踏襲させるのです・・・。面白い。
このお話は結局、攻めの初恋成就の物語なのです。色々な展開が起こりますが、実は一つの恋の周りをグールグル回ってるのは攻めだけという印象なんです。そんな中、攻めの心理面を深く切り込むことで、豊かな(センチメンタルな)「初恋」物語を成立させたのだと思います。

もしかしたら、人によっては最後のくだりはちょっと拍子抜けかも。受けの気持ちがわからない、というのもありそう。でもでも、これは攻めが一人グルグル回るお話なので、実はこれが妥当な結果なのだと私は思いましたー。 
セックスも熱っぽくて可愛かったよー。

その他、(仕事のため気分転換に旅行に来た)作家×(旅館の息子)高校生 があります。これもなかなか奇抜な展開。
鈴木ツタさんの作品の中でも読みやすい作品だと思うので、オススメー。


以下ネタバレ。

nodada's eye.

攻めは、幼少の頃から兄と幼馴染み(受け)との間で揺れ動きます。弟バカな兄に対してうぜぇうぜぇ言ってるけれど、結局どちらも大事なんだと思う。だからこそ、二人の親密さに嫉妬したり追いつきたがったりする。でも、二人に対するそれぞれの感情がなんであるかは、まだ整理できていない。だから自分の求めるところがなかなかわからない。

こんなに 昇くんと喋んの苦手だったかな 
(昔はすごく嬉しくなってた気がする だって だって)
「昇くんは兄ちゃんのものでオレとはあんまり遊んでくれないから」

(そんでなんとなくわかる あの二人も もう少しで一緒じゃなくなるんだ そうしたら)
そうしたら少しはこの積もった気持ちも晴れるかな

たぶん、相手が異性だとしたら、そういう感情に「恋」という名前を付けられたのかもしれない。まあ私は異性愛者じゃないし、攻めでもないのでわからないが、もしかしたら「同性が恋愛対象になることはありえないことだ」という暗黙の諒解が彼の中にあって、それが「恋なのだ」と結論付けられないような“枷”になっていたのかもしれない。異性愛者に限らずそうだけど、同性への<欲望>を 性愛や恋愛 に結びつける機会というものが、極端に制限されていると私は思う。だからこそ、攻めが大人になってからやっと「あれはきっと無自覚な初恋だった」と認識したのではないか?(<攻めの鈍感さとしても解釈できるけどね)
よって、そこにいたるまでは、こうなる・・・。

「若気の至り」「思春期に起こりがちなあやまち」

・・・と、同性への欲望をこのように捉える事になる。なのだけど、攻めは制限されているにもかかわらず、その<欲望>が<欲望>である事を(それこそ無自覚的に)理解している。なぜって、彼は昇(受け)が持つ同性への<欲望>(恋愛)を指摘するもの。 そして受けにキスをしているもの(性愛)。攻めはどこかで<欲望>が「ありえないこと」という枷を越えられるものだと、わかって「いる」。

(そういやオレ 初恋が男だもんな 男もイケて当然かも)

枷はある。縛られてもいるだろう。 けれど、越えている。

「若気の至り、あやまち」で説明がつかない欲望だってあるんだよね。
傍目(つーか私)から見ると、攻めは両性愛者なのだけど、どうも異性愛傾向のほうが特徴的みたい。だ・け・ど!
だからって一番最愛の人が自分の性愛対象【例:男/女 例:S/M】であるとは限らないってことも、あるんだよね〜〜。(「現実にはないない」て言い張りたがる人もいるけど、何処にそんな根拠があるのか逆に聞きたい)
そういうのがいーっぱい読めるからBLって楽しいんだよなぁw
しかし、それが“人の持つ性愛の緩やかさ”ではなく、“個人の内面の問題”“初恋の叶いがたさ”として描かれてあるのが、BL的だなぁと思いました。だからこそBL(に限らないが)は、人の数だけ色んな解釈が出来る仕組みになってるんだとも、思う。

メモ。

受けが攻めを口説き落とそうとするシーン。(過去に強引にキスされたことについて受けが語り始めます)

「俺だって引き摺ってるんだよ 強烈に残ってて その・・・ 女の子とじゃ到底あのインパクトにかなわなくて 変態入ってるだろ でもオレ小心者だから男に走ったり出来なかった お前 責任取れよ」

世間では「男に襲われたらゲイになるんだ」という無根拠な語りがあるけれど、このセリフの部分はそういう語りに手を貸してしまっているだろうか?うーん。

  • 「海の上でみる夢」

この話では、旅館の息子(受け)が出てくるのだけど、この子のお兄さんが男と付き合ってたらしいのね。で、それについて弟である受けは「気持ち悪い」と言うのだけど、それについて攻め(作家さん)は受けに強引にキスを仕掛けてこう言う。

「男同士でもそう気持ち悪くもないでしょ」
「・・・・・・ ・・・うん」
[・・・]
「お兄さんの気持ち少し分かったかな こういうことは他の人といい気持ちになる方法の一つなだけ 完璧な兄さんは間違ったんじゃなくて 人を好きになっただけだよ」

まあ、強引にキスしたのは反省してください。ぺこり。

  • あとがき。

Chara』編集部では中年受けはNGらしい・・・。用務員受けはダメらしい。常務もダメ。

ダメか・・・
「具体的にオヤジの年齢って いくつぐらいなら・・・」
「そうですね 35才までですかね」
こんにちは 壮年大好き鈴木ツタです

ええーーーーー!!35はオヤジじゃない!オヤジじゃない! Chara編集部年齢制限低すぎ!作家さんガンバ!