ゲイが言われてウザイことを列記した漫画でした。

えっと、これはレーベル・内容共にBLではないので、本当はあっちのほうでレビューするべきなんだろうケド、諸事情によりこちらでレビュー。ていうか、今回のは(「も」?)レビューなんかじゃなくてただの愚痴だから、そういうの嫌な人は読まないでね。

きのう何食べた?(1) (モーニング KC)

きのう何食べた?(1) (モーニング KC)

この作品を一言で言うなら、「日常を描きました」系のお話。けれど、「日常」といっても、その日常の切り取り方がかなり意図的。読者に向けて、かなりいやらしく「ゲイって日々こういうことでストレス溜めてるんですよー」ってことを見せ付けてるんです。その表現が(一応)さり気ないから、皆「ただの日常」として受け取るだろうけれど、私はそうは感じなかった。
結局さ、この作品は「ゲイライフ」を題材にしてるんです。で、その内容は「生き難さ」という側面を中心的に強調したものなんです。そういうネガティブな「ゲイライフ」を描くことで、「ゲイ」の一面的な理解をうながしている表現だったと思う。(ていうか、この作品は表象の仕方自体が単純化したものなので、どうしても一面的にしかゲイを捉えられない仕組みになっている。<「アイデンティティー」を描くってそういうことなんだよね)
ということで、この巻ではけっこうゲイライフのネガティブな側面しか読めなかったので、他の側面の切り取りは次巻に期待したいところ!

主人公は筧という弁護士(美貌の43歳)です。彼は倹約家でお金を大事にする人(まあ一言でいうとケチ)。特技が料理で、倹約しながらいかに健康志向な食事を摂れるかに執念を持っている。そんな彼は、同居してる彼氏にも倹約と健康をうながすタイプなのです。そして、きつくてクールなところもあるけれど、どこか三枚目な人なんですよv
筧の彼氏(というかパートナー)は、美容師をやっています。名前は矢吹。筧とは違い、さほど倹約とか考えないし、性格がカッチリした感じじゃないんですね。優しくてのほほ〜んとした人(でもちょっと嫉妬深い)。そんで、職場にもゲイであることを告げてて、そこらへん筧と考え方が違うのでちょっとケンカしたりします。ちなみに、こいつはまんま三枚目キャラですw。

この二人の生活を描いたお話です。・・・なんというか、特に盛り上がりがあるわけでもなく、オチがつくわけでもなく、って感じの話。
なのですが、それがまたゲイライフを切り取る上で、重要な意味を持っていたと思う。
で、料理が美味しそう。レシピとかも付いてきます。なので、料理が好きな人だとより楽しめたんじゃないかなぁと思います。私は料理じゃなくって、「ゲイキャラに共感出来た」という点で、楽しめました。
萌えたかどうかというと、萌えませんでした。。。


以下、愚痴。(注:激しく細かくネタバレ!)


ところで今回はごめんねー、腐女子の皆さん・・・?あなた達には無理でしょうけどー、アタクシにはこの筧たちと似たような経験があるのでー、「主人公に共感して楽しむ」って読み方が出来ちゃうんですよね〜。ま、「変態」と呼ばれてきたものとしての特権ー?て言うのかな〜?うんー。ね−。この楽しみ方はさすがに腐女子さんには無理だろうからー、私が代わりに楽しんであげちゃうねー、あははー(>v<)エヘ
ホント、ごめんね?あははは、うふふふ、ドュフフフ。

■♯1
一話目でね、筧の母親から電話がかかってくるシーンがあるの。彼女はよく息子に電話してくるらしいのです。
で、彼女は息子に向かって「私は同性愛者であるあなたを理解してあげてるのよ!」ということを強調したがる人なのね。で、その押し売りの善意がまたズレまくってるんですよ。彼女は息子に対して「職場にもちゃんとカミングアウトしなさい!」と言うんです。

「きちんとお言いなさい!!同性愛者なのはちっとも恥ずかしい事じゃないのよ!? 人間にはひとりひとり違った個性があってそれは素晴らしい事なの!!」

と、お母様は暑苦しいことを仰います。
・・・ようするにね、よしながふみさんはここで「無条件にカミングアウトすることを奨めるラディカルな異性愛の母親(笑)」というものを笑い飛ばしてるんだと思うんです。
・・・でもなー、こういう表現はある意味面白くはあるんだけど、実際「同性愛者である事は恥ずかしいこと」って思ってる人って多いのよ。そこで簡単に母親を笑い飛ばしてしまったら、「そうだよね、所詮ゲイであることって“恥”だから、人には言わない方が良いよねー。ああ、この母親はわかってないなぁ」って反応する人が出てくるんですよ。
カミングアウトって言うのは、単純に言えば「自分の事を自分で説明する」ってことだから、それを他人が「〜すべき!」と言うのはおかしいわけよ。だから、確かにこの母親はパターナリスティックという点で「笑える」対象なのね。でも、「ゲイ」に対してネガティブなイメージしか持ってない人からしたら、この<笑い>はゲイを「カミングアウトしてはいけない立場」「クローゼット」に追い込む<笑い>にしかならないのよね。。。実際にこの本を読んで「言う必要がない、大声で言うことではない」と言ってゲイをクローゼットに追い込むべきといってる人もいましたし・・・。(本人はそういうつもりはないだろうけど、結局はそれに等しいと思う)
ついでに言うと、ゲイだけが「人の持つ個性だから」と言って肯定するのはおかしい(<それを言ったらわざわざ肯定しなきゃいけないこと自体おかしいんだけど)。異性愛は「個性」と言われることはないのに、ゲイ(と言うか同性愛)だけが「個性」だと言って肯定されるのは、それ自体差別的。
あと、

筧「なーケンジ お前んとこのかーちゃんお前がゲイなの知った時どーだった?」
矢吹「あーウチはフツーにかーちゃんにホーキでおっかけられたよ 「この親不孝もんがー!!」って」

て会話もあったんだけど、ゲイだと「親不孝者」と詰られるのが「フツー」だなんて言わないで欲しかった・・・。

■♯2
女性にレイプ魔だと誤解されたとき、ついはずみで「自分はゲイだから違う」と言ってしまった筧君・・・www
あははは。でもわかる。これ、ついついやっちまいたくなりますよねー。夜道で偶然女性の前を歩いてたら変質者と間違われたりとかさ、そういう時、つい「ゲイだから!」って言ってしまいたくなるゲイもいると思います・・・。
以前放送してたドラマ「弁護士のくず」って番組があったんですけどね。そのドラマで、痴漢容疑で捕まったゲイキャラが弁護士の九頭に「自分に正直になるべきだ!」と言われて、法廷で「自分はゲイだから痴漢してません」と言わされてるシーンがあったのね。・・・あれ本当最悪な表現だったと思うんだけど、(あんなことを言わせた弁護士はまさに「弁護士のクズ」だわ。)この話に登場するキャラたちもすごいですよー。家族全員で「この人ゲイなんだってー」って教えあうってどんな家族だよ・・・。アウティングに次ぐアウティング・・・。筧、カワイソス・・・(´Д`;

「『ゲイ』は職業か!」っつー感じw いつの間にかセクシュアリティが肩書きになっちゃってるんですよね。

「女にとって男は狼、でもゲイは大丈夫」っていう頭悪そうな考え方って本当キライ。

■♯3
矢吹サイテー。自分の勤める美容院に来たお客に「僕の彼氏はハンサムなんです。だけど僕の方がオトコなんです」とか言ってるのよ、こいつ。で、そのお客は筧のことを見て、「この人が例のカッコいい女役の彼氏なんだ」て言うのです・・・。・・・最悪。
なんでゲイばかりがこんなに男性としてのアイデンティティーを奪われなきゃいけないんだろう・・・。矢吹も矢吹だ。ゲイの人でも『タチ・ネコ』を『男役・女役』として捉える「ストレート」な感覚の人はいるけれど(当たり前。同性愛者だって異性愛社会で異性愛を教育されてしまうもの。)、あれってすごいイヤだわぁ。

で、筧は他人にまで自分たちの関係を話した矢吹に対して怒るのです。

筧「俺はお前と違って職場にそういう事は言ってないし知らない人間に俺がゲイだってわかられるのも嫌なんだ!!」

で、矢吹はこう言う。

矢吹「でも店長はお客さんに自分の奥さんや子供の話をするよ? 何で俺だけ自分といっしょに住んでる人の話を誰にもしちゃあいけないの・・・?」

これは♯1のカミングアウト是非論にも関連するよね。世の中には「カミングアウトすべきではない」というクローゼット派の人がいます。腐女子さんでもそうですよね、腐嗜好は人に語るなって言う人がいる。その議論の延長で「ゲイもカミングアウトしなくていいじゃない」て言う腐女子さん(に限らないけど)もいます。
そういう主張をするのなら、同時にゲイをクローゼットに追いやり抑圧することの問題をどうするかをちゃんと語らないと無責任。「カミングアウトしない方が無難だから」と言うのなら、「自分の事を自分で説明する」ことも出来ない“不自由さ”についても問題視しないと、単にゲイに抑圧的なだけ。その他多くの問題点を加味せずに「カミングアウトすべき/しないべき」と主張するのは無責任なのでやめれ。

・・・でさ、この問題について筧は答えを出さないのね。・・・でもそれってわかるわー。だって、どうしようもないじゃん。根性出して「うん、わかった。周囲にも自分達の関係を好きに話していいよ」って言う訳にもいかないし、けれど、矢吹が言ってることももっともだし・・・。本当、どうしようもないよね。
この漫画、安易にハッピーエンドっていうオチをつけないのよ。それがある意味素晴らしかった。「そうなのよ、どうしようもないんだよね」、みたいな・・・。わかるわー。

■♯4
これを読んで「ゲイだけがセクシュアリティの揺らぎを経験する」ていう風には解釈しないで欲しいです。。。

■♯5
ゲイのノンケへの憧れか・・・。ここらへんが単純化した描きなんだよねー。正しい表象なんてないし、別にいいけどさ。
■♯6
うーん。
矢吹が昔ホストやっていたときのお話です。ホストの先輩の家にお呼ばれされた矢吹ともう一人の後輩。彼らは事前に説明されずに家に行ったのだけど、そこで先輩ホストにセックスの誘いを受ける。そして、そこにいたノンケの方はなんとか逃げるのです。でも、ゲイの矢吹の方は「おいしくいただ」いた、という話・・・。
うん、別に文句はないけど、これを読んで「ゲイ同士だったらどんな相手でもどんな誘い方でも喜んで乗る」って解釈はしないでね。。。よろしく。

■♯7
とある男性がDV被害で弁護士事務所に相談に来る。筧がその案件を受け持つ。被害者は弁護士の奨めどおり離婚をする・・・。
依頼人である男性は、周囲から「男のくせに女房に黙って殴られるなんてだらしない」と言われてきたらしいのです。でも、筧は一度も「だらしない」とは言わなかった。そのことに感謝する依頼人。・・・ふむ。

■♯8
この回が一番共感したー。
ていうか、過剰に女らしくないことを心がけようとしたりする筧の性格は、母親によるものだったのかー!

お母様の素晴らしいお言葉。

「お母さん 史朗さんがゲイでも犯罪者でも史朗さんの全てを受け入れる準備があるつもりよ!」
(結局俺は母さんにとっちゃ犯罪者と同じか・・・)

あはははははは!お母ちゃまったら構えすぎ!!面白い!
結局ね。このお母様は「ゲイなんて変態の息子を愛することが出来る自分ってなんて素晴らしいの!」って感じに自己陶酔しちゃってるんだよね。で、そういう善人な自分に酔ってないといけないくらい、心の内でゲイの息子を否定してしまってるんだよねー。このお母様はお母様で、色々悩んでるんでしょうねー。
んで、お父様も素晴らしい。

「で どんな女だったら大丈夫なんだ?お前は」

で、このことについて筧は「ゲイを理解しろとは言わないから距離感をとって欲しい」と愚痴るのね。でも、ゲイを理解するどうこうの話じゃないってのはその通りだよねー。だって、問題は両親が「人は異性愛にならないとダメなんだ!」て思ってることが問題なんだと思うもの。
でも、距離感ていうのもなんか違うと思う。
「距離感」て言うのなら、別にゲイに限らず、程良い距離を保たないと人間関係って崩れちゃうもんね。だから距離感の問題でもないと思う。要するに、「異性愛じゃないといけない!(ていうか人間全部が異性愛じゃないと我慢できない!)」ていう考え方に固執しちゃってるのが問題なんじゃねーのー?みたいな。


でも嬉しかったワー。私善人ってキライなんだよね。善人だろうが悪人だろうが、ウザイものはウザイし。。。よく「同性愛者にも優しい態度を取れる自分ってカッコイイ!」て酔う人いるけど、結局なにが問題なのかを考えないと、やってることは「ゲイなんて変態だ!」て言ってる人と変わらないんだよね。

「いいじゃん、皆変態になっちゃえば。」て言えたらナイスなのに・・・と思うんだけどなー。


でもこれ読んでちょっと凹んだナァ。筧はこんな嫌な事↑があっても、お料理に集中することで「リセット」するんだけどさ。そういう風に、「何か」で嫌な事を吹っ切らないといけないくらい、この世の中って生きづらいんだよなぁ・・・って思うと、なんかね。ちょっと凹んだ。