「おぼっちゃま取扱法」はネタ本。

実は私としては「ネタにマジレスするな」というのはBLレビューでは禁句だと思ってるのですが(そう、私なんかがいつもマジレスしてます。私はいつでも本気だ。)、今回はちゃんとネタにネタで応えてみようと思います。

おぼっちゃま取扱法 (GUSH COMICS)

おぼっちゃま取扱法 (GUSH COMICS)

あらすじ。

就職浪人が決定した憂鬱な春。悠生のもとに一通の内定書が届いた。それは近所で有名なお金持ちである西園寺家で、おぼっちゃま・瑞貴の世話をすること!なぜ、とうして。理由もわからず西園寺家で働くことになった悠生だが、主人の瑞貴は、超わがままで超生意気。振り回される日々にキレそうな悠生はある日、西園寺家の執事から瑞貴が自分を従者に指名したのだと知る。ますます困惑する中、瑞貴が誘拐されたという脅迫状が…!? どうする、悠生!?

帯。

お前なんか、嫌いの反対の反対の・・・∞!!
ツンデレ王子はストーカー!?かわいい命令と愛情表現に従者もめろめろ 藤成ゆうきの初GASH COMICS!

∞・・・?

BLレビュー。

大変面白かったです。どっかの安い男性向け萌え同人誌集かと思いました。こういう、ソフトでクオリティの高い(と思ってますよ?)萌え供給をしてくれるGASHレーベルには感激いたします。そういえば、今月は柚摩サトルさんの新刊も出るのですね。アレは本当に買いです、皆さんも買いはぐさぬように気をつけてください。そもそも、藤成さんはソフトな絵柄なのに、しっかりと男性のエロティックな肢体をデッサン力のあるアニメらしい線で描いてくれるのですよね!
それはともかく、コミックスの本文についてです。いくつか好きなものだけを紹介させていただきますね。

今回は折らないよ。

  • 「おぼっちゃま取扱法」

表題作のお話がとってもキュート。ここまで狙った受けというのも、美味しいものですな。あまりにもあまりにもで、かえってわざとらしさがありません。こいつはモノホンです。注意してください。
藤成作品は評価が分かれるのですが、今回は攻めが好き系でしたので高得点。粗暴っぽい大学生男子で、そこはかとくなく攻めっぽさ(て何?)のある容姿もさることながら、高慢で高飛車な受けに振り回される(のに本当はキレやすい「ヤンキー笑」的)攻めというのが、すごくツボで高得点でした。
受けのプリッ、ツン、とした態度と表情がたまりません。そして、この子は攻めに対して押さえる所を間違いません。自分のお世話をさせながら、絶妙なポイントでテレとデレを使いこなし、攻めを篭絡させるのです。万歳、それは受けの誘い込みだ罠。
で、この受けは融解違った、誘拐されるのです。ええ、もちろん虚言誘拐です。といっても、ちゃんと自分を襲わせる男たちを雇って、わざわざ攻めに助けにこさせるように仕組むのです。
ですがこの受け、その雇った男たちに犯されそうになります。
この受け、何をとち狂ってるのでしょう?間違ってはいけません。「受け」と言えば世界中の男たちから欲望のまなざしで狙われているものだと言うのに、彼はあまつさえ「自分を誘拐しろ」と言い出してるわけです。はっきり言って馬鹿です。いいえ、誘拐を企んだことではなく、自分の「受け」という立場をわきまえず、自ら男たちと密室にこもったことが馬鹿なのです。そんなことをしたら性的な攻撃を受けるに決まってます。だって、受けなんですから
そんな哀れな受けは、攻めにより助け出されます。
そして、彼はテレですから、素直になれず攻めにこう言うのです。「お前なんか嫌いの反対の反対の反対の・・・(合計二十回)」、と。
はい、大変痛いです。イタい子です。このイタさをアピールして攻めに自分のことを「かわいいやつめ」と思ってもらおうとしているのですから、さすがはお坊ちゃまといったところです。あっぱれ。

  • 「してあげる」

これもまた面白いネタ人間の烏合です。楽しい・・・。
寮生である攻めに対して甲斐甲斐しく世話をする管理人(の息子)の受け。この受けがまたツボなことをしてくれます。攻めたち寮生の洗濯物を全部一人でやって“あげよう”と、善意の押し売りをしてくれるのですが、わざわざ攻めのパンツを掘り当てて「大丈夫。ほら、パンツだって平気。洗ってあげるよ!」と微笑みます。攻めはたまったもんじゃありません。受けの天然に赤面する攻め、・・・萌え!
そんな受けですが、どうも寮生の間で変な噂が流れてるらしく、ある日攻めは寮仲間の一人から非道な噂を聞かされます。「育ちゃんってあっちの世話もしてくれるってウワサだぜ」と。あっちというのは関東関西がどうとか高速か下道かと言う話とかではありません。下の世話です。「下の世話」と言っても何も便所がどうとか言う話でもありません。もちろん性のご奉仕です。可愛らしい受けにしてもらえるなんて、嬉しいですね?
そんな非道な噂を聞いた攻めは「無責任なこと言うな!そんなこと言って楽しいのか!?」と怒ります。
しかし、その噂を聞いてからの攻めは、己の頭の中で受けの痴態を想像して「汚す」のです。そんな自分を恥じて「あんなこと言って、一番育ちゃんを汚してるの俺だよな」と自嘲します。ええ、「楽しいのか!?」と聞いてる攻めが一番楽しんでると思います。
そんで、受けはそんな誤解をされて傷つくのですが、幸運なことに、彼らは両想いだったので(だったのよね?)万事OKです。
ところで、どうでもいいですが、攻めは自分の全裸を受けにさらすことに羞恥心を持ってるはずなのに、なぜか勃起チムポを全開で見えるようなポーズをとります・・・。見せたいとしか思えません。
ああ、なんでしょうこのご都合主義的な簡易セックスの手引きは・・・?これどこの異性愛男性向け抜き専門得ろ漫画?
私は異性愛男性向けのお手軽エロスが苦手(「嫌い」じゃなくて「苦手」ですよ?)です。「ああ、これもノンケ男の願望か〜」と思うとげんなりです。ですけれど、こうやって男男で描いてくれると、この見事なご都合主義も美味しいネタになるわけでございます。そんな私が一番「ご都合主義的」でございますよね?

  • 「彼好みになる方法」

なんだかんだと言いながら、これが一番ネタかもしれません。出会いからして突拍子もないです。人懐っこい態度で攻めに(文字通り)アタックした受けは、いまや攻めとラブラブ(←死語ですか?)生活中。そして攻めの心を掴みたい受けは、更なる奇行に出ます。
攻めは時々おぱいを露出してる女性に視線を泳がせます。水着でおぱいが見れる雑誌も購読します。そんな彼にムッとなって受けが憤るのですが。

「今、見てた」
「え?」
「女の子の胸!」
「ああ でかかったよなー」
「・・・・・・・・・」
〔・・・〕
「色っぽい子が好きなんだ・・・」
「ん?なんだよ急に・・・ あ・・・さっきの気にしてたのか?」
「べ、別に・・・そういうわけじゃ」
「好きって言うか やっぱ見ちまうだろ? 男なんだし」
―――やっぱり 色気のある方が好きなのかな?

男女関係の場合、男性が他の女性に目が行くと、たいてい女性からうらまれそうなものですが、男男関係だと「男なんだからしょうがない」で済むらしいです。うらやましいですね?
受けは努力して色っぽくなろうと試みます。しかしその色っぽさの基準が意味不明です。バニーガールの格好やウサ耳チャイナの格好をして、攻めを誘惑します。とりあえずコスプレ好きな異性愛男性にウケる格好を基準にしてるみたいです。もちろんそのパフォーマンスはことごとく失敗しています。で、攻めはこう言うのです。

「い、色っぽく?なんでそんんこと・・・もしかしてこの間のことまだ気にしてたのか?あれは目の保養のためであって・・・」

しかし受けは「好きな人の好みに近づきたい」と言います。なんだか世間が奨励・イメージさせる女性性に振り回されてるような女性を体現した受けです。しかし攻めはフォローします。

「俺は、色っぽさは好きな人に求めてないよ 〔・・・〕歩は色っぽい、じゃなくて素直でカワイイ、だ で、そんなところが俺は好きなんだぜ?」

そう言われて、赤面する受けを見て攻めは「そういう表情が“くる”」と言うのです・・・。で、二人で楽しくコスプレHをしてる時の受けの痴態を見て「今の歩は(「は」?)色っぽい」と告げます。
・・・
意味不明です。
彼らの色っぽさにまつわる考え方は一体どんな基準と定義によって成り立っているのでしょうか?彼の言うカワイイは色っぽさではないのでしょうか?じゃあ、女性を見て感じた色っぽさと受けの可愛さには、一体どんな違いがあったのでしょうか?なんだかよくわかりません。結局女性はどうでもよかったのでしょうか?

この攻めってすごくストレートですよね。異性愛男性じゃなくて、ストレート男性ですよね。彼は、自分の恋人とはかけ離れた容姿の女性を見るその理由を「自分が女性に興味があるから」ではなく「男だから」の一言で済ませちゃうのです。男性が女性の胸を見るのは当然!「ゲイ」?「アセク」?そんなの知りません。男性はそれすなわち女性を見るもので、男性は直ちに女性の胸に目が行くものなのです。彼からすれば、男性が女性を性的に見るのはもはや反射なのです。ええ、自己の性欲ではなく、単なる反射行動・・・。「梅干を見たらよだれ」です。「熱い鍋に触れたら手を離す」です。・・・なんとまぁ・・・。。。

そんなストレートすぎて「過剰に『異性愛男性』を演出し過ぎ」な攻めは、何を間違ったか男性である受けと相思相愛なのです。女性に目が行くのは“自然”だけど、愛してる相手なら男性でも色っぽさを感じるもの・・・、ということになっているのです。ここでは、ストレート男性としての“嗜み”として女性への嗜好が存在しているのです。しかし、その嗜みはあくまで嗜みなので、時には(別の欲望回路・基準として)自分本位にパートナーを選んだり、時には嗜み以外の対象に色っぽさを見出すのです。
・・・彼は一体何者だったのでしょう?彼はストレート男性ではなかったのでしょうか?それとも彼こそがストレートな異性愛性を体現したもので、正しく異性愛で男性な人間と言うのは、こんなアンビバレントな欲望を持つものだった、、、ということなのでしょうか?異性愛男性とはつまり両性愛者なのでしょうか?
このお話では、異性愛で男性の“おかしみ”が描かれてあります。というか、これは「異性愛男性はおかしい」と言って憚らない漫画なのでした・・・。
大変愉快なBLで、おいしゅうございました。
他にも何かありましたが、特に興味はございませんので水に流します。