「太陽は罪な奴」レビュー。

太陽は罪な奴 (ビーボーイコミックス)

太陽は罪な奴 (ビーボーイコミックス)

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  • あらすじ。

つい唇を奪った。そして奪われた。先輩は格好良過ぎる。正気の沙汰じゃない――。
誰にでも好かれる渡辺は、無愛想で硬派な先輩・矢田にキスを仕掛けた。
ただ、止められなかったから。
制御不能な胸一杯の想い、それが恋…。
過去から現在まで、著者とBLの醍醐味が集結。
少女漫画界の貴重な才能が贈る初BL本登場!

  • 帯。表・裏。

BLの物語のちから
「好きになって声が、砕けてしまいそうで切なくなった」
少女漫画界の才能、中村かなこ初BL作品集。

古典的に「切なげ」系でした。

「オレこの人になら、こんなこともできちゃうんだなぁって、すげー手っ取り早く思い知った」
「唯一無二に愛しいこの人間を、汚して光れなくしてるのはオレ」

太陽みたいなきみに恋をした――

BLレビュー。

久々にTBさせてくださいー。ぺこり。
http://konna-hon.jugem.jp/?eid=522
http://caramel777.blog122.fc2.com/blog-entry-114.html

この方のコミックスは、以前に書店で偶然手にした『袴田ピアノ教室』だけしか読んだことがなかったのですが、いやはや、実はBL描きでもあったなんて・・・。いったい私の嗅覚はどうなっているんだ、と(笑)
この、まるで“キャンディー”のようなタッチで描かれるBL(キャラ)を読みたかった私としては、氏のコミックス発売は果報でした。そう、あの叫ぶときに笑った風にも見える四角い口の形と、鬼気迫る瞠目加減が、独特で良いんですよ・・・v

どことなくレトロな印象も受けるし、少女マンガに詳しくない私としては「ああ、なるほど、これが少女漫画テイストなのか」と思わせます。で、思ったのが、昔の作品のほうがガッチリした男性同士のお話が多いみたいと言うこと。最近のになるにつれ、デッサンがより柔らかめになり読みやすいし、またキャラクタの容姿もジャニっぽくなる・・・。目や輪郭の主線が愛らしくてキラキラした絵柄だなぁと思います。ですが、どこか熱血な感のする表情がとても魅力的で、ソフトとハードの度合いが良いバランスです。(けど、少年誌派にはどうかなぁ?)
絵柄のことばかりに話が行きましたが、ではストーリー性はどうかと言うと、そのリリカルな青春物語は絵柄とマッチしつつも、意外にネチっこくも感じました。自分には才能がないのかと迷う美術部所属の少年とサッカー部で活躍中のひたむきな少年、役者として一級だが芝居嫌いの青年と正に役に没頭するタイプの天災肌の青年、・・・このコミックス前半に収録された二組のお話(ちなみにこれらは最近の作品)も、なんだか劇的でもあるし、やや情緒的。
全体的に、『袴田〜』には感じられなかった“陰り”さえも感じられるBLテイストとなっていましたね。陳腐にもなりそうな展開もあるし、そこらへんのお昼なアプローチは好みが分かれるかも。。。(「マーブル」にしても、あそこで“父親との因縁”を出してくるあたり・・・)
なんと言うか・・・、苦難を乗り越える様が「必 死 だ な ・・・」、みたいなw
で、これも少女漫画テイストなのか知りませんが、セックス描写がとても詩的でボカされた印象でした。ただ、そのおかげで「攻め/受け」における「挿入したい、されたい」というセックス願望から距離をとり、「抱き合いたい!」という感情が伝わってくるのが、私的に美味しかったです。挿入もいいですけれど、“抱き合うためにセックスをする”というのも、共感をえられる描写ではないでしょうか。
あと、コミックス後半の(初期作品にあたる)短編なんかは、微妙にジュネ的?・・・時代的作風?
あとあと、コミックスにするにあたり、各話毎に一ページのモノローグを挿入してあるのが、印象的な演出でしたね。

以下ネタバレ注意。

+nodada's eye.

ブラック・スター

幼馴染もの。薄い関係性ながらも、実は「振り向けばいつも君がいた」的立ち居地。
自分の美術の才能を疑う花尾のことを、「ブラックスターだな」と表現する「照くん」。「光ってはいないし見えないけれど、確かにそこにある星」にたとえられる花尾だが、それは彼らの同性愛関係に対してもあてがわれる比喩である。幼馴染と一緒に「ビカビカ」に光ろうと邁進する青春群像物語が、同性愛とリンクしたり距離をとったりしながら深まる話。最初、照くんへの憧憬っプリを「ホモ色片思い」と揶揄されて、恋愛感情だと思いつつも「やっぱりこんな気持ち『ギャグ』だよ」と混乱するが、すぐ「いや、やっぱり本物の気持ちだ」と居直る花尾。それを拒むのは照くんで、彼は「ギャグだ」「死んでもお前とは絶対付き合わない」と突き放す。花尾が一心不乱に目の前のこと(部活動のイベント企画)に集中して頑張る中、お互いに「ビカビカ」を見つけて成長する二人。そこで改めて向き合う二人だが・・・。

(照くん)「花尾はオレの太陽なんだ〔・・・〕太陽にうしろめたい恋愛は似合わない 死んでも・・・そんなんさせらんねーよ〔・・・〕お前はわかってない つき合うなんて簡単に言うな お前はギラギラ走ってればいーんだよ くもらせることすんじゃねーよ 墓まで持ってきゃいーんだよ 誰にも言えない光れないそんな恋愛・・・」

(花尾)「・・・そんな恋愛のなにが悪いの?オレがいつも照くんからもらうあったかいもんは墓に持ってかなきゃならないようなもんじゃないよ そりゃあふつーの恋愛が輝く星ならオレらの気持ちはまっ黒けのそれこそブラック・スターかもしれない でもそれがなに? 星はあるんだ 光れなくてもどんどん育っているんだよ オレらの星がまっ黒だからってなかったことにしないでよ 大切にしたいからつき合いたい 一生一緒にいてほしい 照くんがすごく好きだよ オレの大切なビカビカの一等星は照くんだよ」

二人は相思相愛だったのだけど、同性愛関係なので云々・・・、という話らしい。なんともナイーブだわ。ヤマシタトモコさんでも思ったけど、このバビり方はナイーブだわ。
で、この後花尾は悲観的にも「汚して光れなくしてるのはオレだ」と心を痛める、と。さて、ここでは「ふつーの恋愛」が何であるかは指していないものの、「ふつー」とされる恋愛の存在価値を再考する意思の感じられないこの構成は、私はあまり評価しません(もっと「ふつー」と「変」の境界線を揺るがせ!)。それに、同性愛が「ブラック・スター」であり続けることを無意識的に公認し、差別的現状を肯定してしまっているような感じも評価できません。ですが、このお話の「ブラックスター」は、「いつかビカビカに光れる日が来ないとも限らない」ものとして位置づけられているので、この物語の隠されたメッセージ性には「同性愛関係も今は軋轢があるけれど、いつかは変えられるかもしれない」というものがあるのかもしれません・・・。もちろん誤読の可能性はありますが、好意的に“も”読み込めるこの構成を、私は“楽しむ”ことにいたします^^

マーブル

えっと、いきなりだけど本題。(疲れてきた)
彼らの演じる劇『マーブル』は「男二人と女一人の三角関係、でも本当は男二人は相思相愛であることを女は知っている。男二人は学生の頃一度関係を持っただけで、結局片方が女と結婚する。男は言う、『あいつと結婚していながら幸せじゃないのか?なら、死ねよ、オレと死んで』と。そして死ぬ」と言う話。このお話では、その劇と彼らの現実が折り重なっています。

見たこともない「マーブル」を見ながら私は突然気づいた 脚本の中の二人は片方が自殺してしまうアンハッピーエンドだけれど この二人はちがう 渦巻き続ける暗いマーブルを支えあって笑い飛ばす きっと

(ちなみに↑は脇キャラ視点の語り)
もともとデッドエンドだった『マーブル』だけれど、それとは裏腹に、現実の彼らは「生」のある「愛」を培おうとする・・・そんな印象の終わり方でした。これは、同性愛関係を悲観して否定するだけではなく、肯定もしようという意気込みを感じさせますね。ぐるぐる・・・。

後半の物語は、「どっちが攻め受け?」という容姿の二人でグゥ。けっしてHシーンは多くないのですが、ツボカップリングでしたv
最後らへんの『敏子』はちょっと好みがはっきりと分かれそう・・・。
要するにあれでしょ?男同士だったから気持ちを覆い隠して黙っていたせいで、結果的に外野の女を巻き込む形になったって話でしょ?・・・どうなんだ、それー。正直、事情があっても男同士のアレやコレやに女を巻き込む構図は好きになれないー。結局「気づけば後悔の残る失恋(と言うか過ち)をお互いしてしまったけれど、それでもパートナーとは上手く行ってるし異性愛で落ち着きましたー。片方もいつか異性愛で落ち着くでしょうーそうするのが正しいでしょうー」、みたいな結末で、萎え。「なんだそのキワどいプレイは」・・・、と。(汗)


私は断然、『モカ』『シャンプー』派♪このデキデキのパートナーが、“愛犬家と犬”みたいに生活感漂う恋愛してくれている、このお話が好き!ショーくんってば短髪で男前なのに、パートナー視点により「小型犬」になっちゃってて、可愛い!! しかも「梶臭」ってwww
ゲイ(か微妙ですが)カップルが、片方の親族の結婚式写真見て和んでます。ほんわか〜。

正直、このコミックスのよな「ヘテロ男子の物語」を強調したBLは飽き始めてるのだけど、割と肯定感があってステキ作品集でしたー^^