「ビター・スイート・レシピ」でつぶやき。

気力が沸かないから、レビューではなくつぶやき。

ビター・スイート・レシピ (ディアプラス文庫)

ビター・スイート・レシピ (ディアプラス文庫)

  • あらすじ。

一年近くひきこもりを続ける健太。亡き祖母の住居兼店舗で、現実逃避にレース編みをしてひとり、暮らしている。そこへある日、宇佐見という男が訪ねてきた。長くシャッターを降ろしたきりのこの店で、焼菓子専門店を開きたいというのだ。店を貸すことになった健太は、夢と希望に満ちた宇佐見のペースに巻き込まれるうち、彼に惹かれている自分に気付き……? ほんのり苦くてほんのり甘い、ラブ・アソートメント!!

  • 帯。

恋してる。生きている。
ひきこもりの健太の毎日に魔法をかけたのは、宇佐見の、大きくてあたたかな手―――。月村奎、待望の新作!!

マジカルハンド。

以下ネタバレの子。


●実は雑誌買って前半は読んでる。
●書き下ろしはキャラが増えて若干雰囲気が変わっている。
●にしても、私がネットで読んでイメージした「ひきこもり」像とは細かな点で違うんだなぁ。
●(規範に従おうとするが故に規範にがんじがらめになる、というような面ではある意味同じなのだが、悪循環がこうも簡単に解消されてゆくと逆に怖くなるw)
●いや、別にステレオタイプに当てはまらないからってどうと言う事はないのだけど。
●と言っても、私ってば「引きこもりをテーマにした初めての社会学書」、井出さんの『ひきこもりの社会学』を読んでない。
●ひきこもりは規範意識が強い、か。
社会学ではひきこもりは「集団に帰属できない社会逸脱」の集合・現象として考えられるのか、ナ…?
●井出さんの理論モデルで言えば主人公の健太は「拘束型」かな。
●慕っていた祖母の死と受験の失敗を「きっかけ(つまり原因ではなく、単なるきっかけ)」に、ひきこもるようになる健太。
●学校規則などの従うべき規範のアノミーで「何したらええねん」状態になったんではナイのだが、お話の内容としては不登校のひきこもりではなく就労関連のひきこもりに近い。ふむ。
●健太もかなり就労規範(て言い方が妥当かは知らない)があり、「普通に働いたり、学校に行かなければならない」と強く規範を内面化している。
●ゆえに自己否定的。
●そして両親は向上心が強く「良い学校、良い就職」という理念で健太を育てた。
●彼の世界観も、学校以外の『集団』がないみたいだ。『外部』が少ない環境に育つ?
●しかし、彼はおばあちゃんっ子で、亡くなった祖母こそが『外部』であったのだろう。
●で、この場合攻めは王子様なのだけど、健太にとって彼は次なる『外部』であり、「学校」「会社(?)」以外の価値観を提示する支援者?
●と思いきや、彼はいくどとなく「今はそうだけど、いつかはひきこもりから離脱出来るよ」と励ます。
●ひきこもりを「いつかは離脱すべき行動」として捉える。
●それはもちろん健太本人のためであり、必要な支援である。
●(であるのだが、「離脱すべき」という命題が成り立つとしても、その命題による支援そのものが当事者の心的負担となりはしないのか?)
●健太は「いつかは…」と励まされることで「彼もまた自分を集団に行かせようとするのか」と不安になる事はない。あくまで宇佐見は「見守るだけの支援者」として認識される。
●て言うか、健太ってどうも「ひきこも」ってない。元から一人暮らしで最低限の買い物はしていたし、馴れ馴れしく外に目を向かせようとする宇佐見が登場してから比較的容易に外に出向くようになる。
●なのに、健太自身は「ひきこもり」という主体性を外的にも内的にも強く押付けられているように見える。
●このお話でも「ひきこもり」という名前がスティグマとして機能しているようだ(また、あえてそう描かんとしている)。
●ともあれ、無知な私が偉そうに引きこもりを云々してよい訳ではないのだが。
●とりあえず言えるのは、この作品はひきこもる健太の「普通に生活―就学就労―したい(、しかし出来ない)」という痛みと同調して規範を再確認するお話。
●(誤解してほしくはないが、「ひきこもりで経済復活」とか言って肯定的な「社会逸脱」として捉えようとは思わないw)
●ただ、どうしても私なんかは、「じゃあもし仮に健太が最後まで社会復帰に失敗したら、皆健太を見捨てるの?」という恐怖を抱いちゃう。
●何にしても、健太の人生に少しばかりの希望が見えなくもないので、彼の救済の道が感じられて嬉しい(安易に、引き子こもりから離脱できてハッピーエンド、とはならない)。
●しかし萌えない。
●なんでもっとこうオナニーしてくれないんだろう。
●いーじゃんかよー。別に誰に迷惑かける訳でもナシ。
●老女の住んだ家で隠居生活。すごい萌えるシチュじゃないか!
●だって遺産あるんでしょ、宇佐見の商売も繁盛しててテナント料もあるんだよ?
●でも、お金とか損得勘定なしに店を貸し与えたりする健太。イイ人すぐる。
●そもそも、そういう自分の恵まれた環境に甘んじてはいけないとする健太。(読者の「怠けるな」という怒りに触れないように出来た、何ともお利巧な受けタン。)
●お兄ちゃん、世間体を気にしているかのような口ぶり (しかし本心ではない?)。
●そういう家族単位な価値観を見るに付け、異性愛規範の強い家族と断絶せざるを得なくなるクィアを思う。
●(その点私は家族に恵まれているのでしょう、わーーーい俺勝ち組み!?でも個人単位の価値観寄りデース)
●恋のライバル美緒、「さり気に牽制したりして私って嫌なヤツ」、全然嫌な奴じゃないのが笑えるw
●「人間の屑」とまで言う兄、しかしそれも弟への愛ゆえ。いい人すぐる。
●そうか!お兄ちゃんだ、萌え!
●でも言ってる事は本当にひどいw
●基本みんな善人。やだねー。
●ポリアモリーポリガミー)な間男キャラの榊原だけ嫌なヤツwww
●ところでなんで物語に出て来るポリガミーはこうもモノガミーに対して配慮に欠けた言動ばかりするのか(「はた迷惑な無節操」)。一昔前の「ヘテロに襲いかかる」レズビアン・ゲイキャラクタと同じではないか。
●て今もそんな扱いですかそうですか。
●でも榊原の言ってる事も結構頷く。なんでこうも健太はセックスに対して受身なのだ?「受け」だから?<駄洒落かい。
●ちなみに書き下ろしはめでたく付き合ってからのアレコレを描いたお話。健太視点。
●ちなみに宇佐見はゲイ。
●ちなみに健太は恋愛ごとに疎いらしく、美緒などの女性に欲望を抱かない→「なのに宇佐見の手にはドキドキする」→恋、みたく描写される。
●興味深いのが「ひきこもり」と「同性愛」の扱いの違い。
●健太は就労規範が強いのだが、かわって異性愛規範は薄いような。
●と言うか、(1)ホモフォビアを強く内面化しているが、その割りに(2)異性愛規範は薄い。
●ひきこもりに関しては、(1)自己否定感と(2)規範意識のどちらも強く内面化している。
●始めての同性との付き合い及び同性間セックス(初めてのお遣いw)。
●「普通」になりたい彼にとって、「同性愛」は更に規範的生活から逸脱してしまう要素、…にならないのだろうか。
●それどころか積極的な事に、「付き合ってから何ヶ月も経つのに、宇佐見さんは何故自分に手を出してくれないのか」とまで考える。(考える事が出来る)
●つまり、同性間セックスに対するタブー感はない。
●彼の抱く同性愛に関する問題とはひきこもりにおける悪循環のそれではなく、「果たしてこの恋(同性愛)は報われるのか否か、もしくはこの恋心のせいで宇佐見に嫌わてしまうか否か」という、いたって分かりやすい不安でしかないらしい。
●つまり、問題の質が異なる(ように描かれている)。
●ここらへんでも、健太は体制的な価値観を持ってるのかどうか良く分からないキャラクターだ。
●ただし、「自分の恋心がヘテロには受け入れがたく、気持ち悪がられても仕方がないし、時には自分からヘテロ様のお目に入らないように配慮しなくてはならない」という意識が彼にはあるようだ。→ホモフォビア
●にもかかわらず、彼は同性愛というネガティブな(と見なされる)付き合い及びセックスを自然に受け入れているようだ。
●この点でひきこもりと同性愛の描写はどこか対照的。
●そう言えば、ひきこもり者の集団適応(就労就学の規範)以外の規範意識の強さってどうなんだろう。
●この場合で言うところの異性愛規範は、一般のそれと比べて何か有意な差が見られるのだろうか?
●BLでは何か一つのネガティブ要素を丁寧にオナニーして、それを攻めが肯定し救済するカタルシスがある。
●BLにおけるネガティブファクタとは、「攻めによる受けの救済」というカタルシスを演出するため呼び出された御出汁のようなもの?
●その現場において、ふたつのネガティブ(と見なされる)要素があった場合、それらはどのように用いられているのか。
●今回で言えば、儀礼的なホモフォビアは描かれるものの(「同性愛は嫌悪されて当然、自重すべき!」)、受けの「ひきこもり」ほどの規範意識と自己否定は描かれないように見える(「同性間でセックスして、果たして自分はどうなってしまうのか!逸脱してしまわないか!」)。
●そして攻めは受けの「ひきこもり」を救済する他者として(だけ)登場・活躍する。
●そんな中にあって、今回の同性愛とホモフォビアとは、本来のテーマではない(ゆえに自己否定もあまり描く必要がなく、わざわざ救済される事もない二次的なものであり、)単に「お作法」であったのかも。
●お刺身についてくる千切りにされた大根みたいなアレ。或いは朝食に出るおしんこ。→即ち儀礼(〜〜なら〜〜されるのが当然だろう)。
●という何ともアレな結論・・・。
●こうしてホモフォビアは規範化されていく。
●言っておくが、私は月村さんの作風が大好きだ。
●私がこういうこと書くと何故か大上段になって嫌な奴!て感じ。
●いつも「石を投げないで!」と言っているけれど、もういいや、存分に投げてやってください。たぶん、傷つかないから。
●とりあえず、隠居生活で朽ち果てていくクィアのお話が読みたい。
●いつしか男装限定になる女装受け読んで「ずっと女装しつづける男性を読みたい」のと同じ心境?
●どうでもいい、眠い。
●寝るし。

メモ。

 「それは依存じゃなくて信頼って言うんだよ。ケンちゃんがそう思ってくれてるなんて、すげー嬉しい」

「信頼は依存ではない」、か。ふむ。