「王様にKISS!3」を読んだ。

王様にKISS! 3 (花丸コミックス)

王様にKISS! 3 (花丸コミックス)

  • あらすじ。

東京のとある郊外にある桃武伊勢咲高校で、生徒と養護教諭として出会った真希と良文は、いろいろなことがありながらも晴れて恋人同士として同棲生活に至りました。そしてその後ケッコーン☆というわけでとても幸せに暮らしておりました。しかしここで大きな問題が! 男手ひとつで良文を育てた父・貴文[男前]は二人の仲を許そうとしません。愛する人の家族として認めてもらいたい真希は、貴文の暮らす福井で嫁修行を…!? 真希と良文、二人の未来の姿を特別に描き下ろしで収録、愛と勇気と感動のフィナーレ!!

  • 帯。

きっと誰かが愛してくれる
真希と良文 感動のフィナーレ!

これは「非承認型の関係であっても、誰かがその関係を愛してくれる」というメッセージにも受け止められた。あと、このコミックスでは、真希が好きなペンギンがマスコットキャラになっているが中表紙のペンギンが増えているのは「真希の周りに家族や仲間が増えてゆく様子を表している」とのこと。
そういえば、日本でも話題になったオス同士で子供を育ててるペンギンの絵本があったなぁv

BLレビュー。

王様にKISS! (花丸コミックス)

王様にKISS! (花丸コミックス)

こちらの第三巻です。

2001年から連載を始めた当シリーズもとうとう最終巻であります。ひそやかながら見守らせていただいたファンの一人です。本当に最後まで感動的な幸福感を与えてくれるシリーズでした。
立ち読みはこちら。
花丸|白泉社

この本の面白みとは、ハッピーでラブラブで究極に乙女チック且つ変態な持ち味にあるでしょう。
どこでもセックスしちゃう夏也と宏太カップル(振り回されてるようで振り回すタイプw)。
天才王様だけど純粋無垢ゆえにイルカとも会話できる究極の天然ナルシストっ子真希。
そんな真希に尻に敷かれながらちゃんと支えあう包容力を持った(でもやっぱり能天気で天然)良文。
彼らの愛すべき子供である猫のシャケ。
周囲のヤクザさん達クラスメイト達親達…。
真希と良文達の天然っぷりが、笑いの絶えない悲喜こもごもが、彼らを包む温かな世界が、私に奇跡のような満足感をくれるのです。
せらさんの描く世界がとても好きでした。ありがとうございました!

ただ、一つだけ恨み言をつぶやかさせてもらうと…、元々一話だけは夏也×宏太のお話だったこのシリーズが、真希が出張ってくれたおかげで結局まともにエロ含め読めなかったじゃないか!くそぅ、最後までお邪魔をしてくれやがって真希め!w


ともあれ、本当に終わるのが残念だけどそれ以上にしっかりと幸せを掴み取った彼らの人生に乾杯したい気持ちです。


nodada's eye.

作者さんのあとがきに「普通に出会って普通に家庭を作っていくお話を描きたかった」とありますが、確かにハートフルな家族愛に満ちた作品でした。
出会って→恋して→デートして→結婚(同棲)→子供ができて(猫のシャケ)→舅問題
と言う展開ですが、本BL的にはこのシークエンスが「普通」のライフコースなのでしょう。それを男性同士でやるのがまず一つの面白みではありますがしかし、BLのこの定型パロディー性は否応なくノーマティブな家族観を踏襲し、非承認型の関係にまでソレを倫理的に(!)なぞらえる事で、規範を脱臼させると言うよりは「これこそが幸せの形なのだ」という固定化を進める懸念があると考える。

しかしながら、それらの踏襲を少しばかり逸脱しズラすのが彼ら天然恋愛パワーだったのと思う。

王様にKISS! 2 (花丸コミックス)

王様にKISS! 2 (花丸コミックス)

第二巻では良文の父親が(息子からの「恋人ができました、正月に連れて行きます」という手紙を受けて足早に)登場し、そこで真希という男の恋人を見て愕然とする。真希には「俺は男の嫁など認めない、子供も産めないくせに妻だ?ふざけるな、別れろ」と言い放ち、息子にはヘンタイと罵り勘当する。

…自分には子供が生まれるかもしれない、いや大好きなペンギンを産めるかもと期待するような真希は、男同士の夫婦(夫々)が時に反対されるものとは夢にも思わなかったのだ。

最初は自分の美貌と良妻賢母っぷりを愚弄されたことに憤慨していたが、良文と話し合い友達に相談し、冷静に父親の気持ちを振り返って考えが変わる。

「確かに俺は子供を産んでやれない だがそれが何だ!!世の中には子供のいない夫婦なんてたくさんいるではないか!」

俺はバカだ 親父の言葉は 親として当然の事だったのに 自分が傷つけられた事にばかり腹を立てて 親父だって息子の恋人が男でショックだったはずなのに 俺は自分のことばかり考えて
良文は俺の母さんを「自分の母親と同じに愛する」と言ってくれたのに 俺は「二度と会わない」なんて言ってしまった

真希はどこか保守的家族像に憧れてる節がある。それは(良文が母親を亡くしてるのと同じに)早くに父親を亡くしたり、子供の頃から王様でコミュニケーション下手なせいもあったかもしれない。
そして親父さんから詰られても、それを「当然のこと」としてホモフォビアと血縁関係(の生産)推奨を規範化し、憤慨した事を“反省”して倫理的に恋人の父親を愛そうとする。
ここでは同性愛と血縁非生産と年齢差が一まとめに問題化していてとても複雑だ。

ところで私も日本にある「家族の会」などの団体運動が必要な背景を理解してるつもりだし、親族が抱える悩みというものも配慮されるべきだとは頭で分かってる。ただ、今の私にはかれらを慮る気持ちは差ほど持てなくて、↑のように「反対されても親として当然の反応だから相手の戸惑いに配慮すべきだ」と言われてしまうと「なんで私達がかれらの悩みに耳を傾けなきゃいけないんだ」とどうしても思ってしまう。そもそも保守的家族像を信奉したりホモフォビアを抱えているストレートが私達に「問題」を抱え込ませているのであって、その私達が何故かれらを配慮しなければならない?こっちはこっちで忙しいんだからストレート達も自分のことは自分でなんとかしてくれ、と突き放しちゃう(まあ互いに手一杯だからこそ家族側にも自助グループが必要になるのだと思うが)。

でも、それはちょっと違ってて。以前NHKLGBT特集でもあったように互いに互いのあり方を協議・相談する方向もあって良いはずなんだ。それを実際にやろうと(「時間はかかるかもしれないが、お互いを知れば理解してくれるはず」)持ちかけたのが「能天気な」良文だった。真希はそれに答えたんだ。(私には無理です)

そして、第三巻では親父さんと真希のガチンコバトルが勃発するのである。
良文の実家へ赴き真希が「俺様がどれだけ優秀な嫁か知るのが怖くて家に入れられないんだろう」と挑発しそれに乗った親父さん。(詳しくは立ち読み参照)

親父「たくあんが煮てねぇ〜!!福井人はたくあん煮て食うんだ! そんな事も知らずに来たのか!!」
真希「だからってひっくり返すことないだろ!!食べ物を粗末にするなーー」
良文「真希が正しい!だいたい福井人たって東京出身のくせに」

親父「漁を手伝うだぁ?テメーなんぞ俺の神聖な船に乗せられるかボケ!」
真希「ほう 乗せて頂けない…だったらオレと良文の関係を漁師仲間の皆さんに懇切丁寧に説明して差し上げてもいいが」

こんなやり取りを繰り返しながら、妙に息が合うふたり。マイペースなカップルにやや押され気味の親父さん。途中一騒動あったことも起因して、人情物語な流れで少しずつ距離を縮める。
その成果として、真希は親父さんから良文の母親が眠る墓地に案内してもらえる。

親父「言っとくがな…俺はお前達を全て理解したわけじゃねぇぞ 男同士なんて理解不能だ ただ、この先も良文と一緒にいるつもなら静美に挨拶くらいして行け」

親父さんはそこで墓前で合わせられた真希の手に注目する。真希の手には、火事の時に(第二巻参照)良文母の写真を守ろうとして負った火傷と、結婚指輪に気付く。

親父さんのお家に帰ってからも、墓前でお供えをして拝んでいる真希。

良文「お袋と何話してた?」
真希「『オヤジの老後の面倒はオレに任せてください』」
親父「静美に余計な事言うな!男の嫁なんぞに面倒見られてたまるか」
良文「すっかり嫁と認めてるし」


更に10年後のエピソード。新しい妻が出来た親父さんは夏也宏太カプとも知り合い、彼らにこんな言葉を寄せている。

夏也「それでも二人を許そうと思われたのは…どうしてですか?」
親父「許したんじゃなくて諦めただけだ いくら反対しよーが一緒にいるしよ まー 男の嫁もけっこう役に立つし…体力あっから それにうちは他に男三人も生まれたしな… 次産まれるのも男だろ 良文一人くらい嫁が男でもおもしれーかと思えるようになったぞ お前らも時間かかるだろうがまぁがんばれや」

そもそも同性間関係を異性愛者が「許す権利」などないのだけど、このBLでは一貫し<愛情>こそが彼らの幸福を強引に成り立たせると描かれるのだ。
にもかかわらず結局ホモフォビアは最後まで至る所で散見されたし、異性愛など規範が揺るがされた形跡は差ほど多くもないのだけど(寧ろ強固な面も一部で見られた)、クリスマスエピソードの入籍問題であったように、幸福至上主義の彼らには、既存の枠(戸籍・生殖などの家族関係)を自分本位に揺るがそうとする力がある気がした。

真希 大切なのは姓でも名前でもない 
真希が幸せでいることだ
自分が幸せだと信じた道を行きなさい
ずっと見守ってるよ


そして彼らは、出会った頃から二人で生きてゆく事が「自然」でずっと続くと確信していたのだという。そして自分達が培ってきた家と家族を持ち、帰る居場所を見つけた…。
 
どこまでも究極的な愛と家族の理想像や規範主義を体現しつつ、自分達のクィアを幸福の中に留め続けようと抗う真っ直ぐな愛情。
これも私が好きなBLが示した道の一つだと思う。