「あかないとびら」で再読してみた。

拍手ありがとうございます!返信不要な方も、ちょうど今欲しい言葉だったので嬉しかったです^^
イカネタバレ。

あかないとびら (バンブー・コミックス 麗人セレクション)

あかないとびら (バンブー・コミックス 麗人セレクション)

さて、今日はちょっとこちらを再読してみた上で雑感です。レビューは確かしたような気がします。そうそう、こちらには今月レビューした鈴木ツタさんの最新コミックスで登場した西島尚が出ていたんですよ。尚と養子縁組した元ヤクザの西島さん・・・、一体どうしたのでしょうね。正直そっちのがきになります。
それはともかく。

nodada's eye.

表題作について書きたいのだけど。この薄井ってさ、皆はどう思ったんだろう?こやつって、「ホモとか引くし自分には関係ないけど、なんかアイツが他の男に触られるのは我慢ならねぇ」とか思ってるんだよね?また受けの升岡はどうやら異常なフェロモンがあるらしく、とにかく行くとこ行くとこセクハラされている。で、たぶんこの話って所謂ツンデレ?攻めの話で、「は?確かにヤったけどオレはホモじゃねーし、アイツの事好きなわけないじゃん」という言い分があからさまに「素直になれない恋心」だったってストーリーなんだと思うのね。しかも升岡のフェロモンを薄井だけが分からなくて、それなのに他の男との接触は嫌って「許可なく誘うな」的台詞言ったり自分に好意を持ってる事に満足したり、独占欲が見られる。それは、ホモフォビックなストレート男性が何故だかどうしようもなく受けの魅力にはまってしまい、無自覚に恋をしているかのよう。
・・・たぶん、そういう読み方がBL的に正しいんだと思う。
でも私からしたら、この薄井の言動って「自覚のないラブ」とは限らない風に感じられてね。薄井は「男のくせに男が好きとか間抜けな野郎だ」と内心思ってて。升岡が前の職場で同性間セクハラを理由に辞職したのを無理やり聞いておいて「あーごめんオレとは無縁の世界だったわ 大変っスねそちらの世界の人は」とか失礼な事言って。しかも、自分と距離を取らせるために意図的に「俺に危害さえなければ、お前がゲイなのは個人の自由だし別にいいけど」とまで言うのね。また、男同士ならすべて「ホモ」だと言ってる薄井の論理からすればあんたも同様に「ホモ」だよ!って感じなのに「オレは今のところホモじゃねー」とあくまでゲイアイデンティティを否定する有様・・・。。(・・・ところで「危害さえなければ個人の自由」というよくある欺瞞について、薄井ですら少しは冷たいこと言ったって自覚してる節があるけど、最近これをリアルに言われた事あって。だから私も「うん、オレも自分に迷惑さえかけてこなきゃヘテロでも許してあげる」って意趣返ししたんだけど、やっぱり無自覚な人なせいかスルーされて効果なかったー。難しいなー。<ちなみに言った事に関しては反省してない、目には目を歯に歯をがモットーなので)

こんな攻め男が、電車で痴漢にあってる受けを助けたからって、3人一緒に同居してる森先輩さんにレイプされかけたのを見てイラっときたために「今日電車で誰がお前のつまらねーケツ守ってやったと思ってるんだよ」とキレつつ助けたからって、そこでいきなり「頭ではデタラメだと分かってるのに体が勝手に」とか言って受けに奉仕させるからって、「ふーん、俺は嫌いかな深みにはまったら怖ぇーし」と冷笑してる様から「素直になれない恋心」があるようには、なかなか見えづらいなって思ったのよね。今読み返してみるとね。

まあ、だからこそ、薄井に「何、(俺の精子)飲んだの?引くわ」とか言われても「(飲まずにいられるかっちゅう話ですよ)」とか、森先輩に「薄井にフラれたらオレが慰めてあげるね」と言われて「(薄井先輩が奉仕させてくれなかったら今夜にでも頼むところだよ)」とか「(追い出されてもこの思い出を糧にしてくから好きなことしちゃえ)」とか内心思ってる受けのゴーイングマイウェイっぷりが小気味イイのだよねw

結局この話で唯一の勝ち組って受けなんだ。だから反対に攻めのホモフォーブっぷりが滑稽に写って楽しくさえある・・・。
「世のホモフォーブちゃんもホモエロチックな感じで可愛くなれるものだねぇ」と。
だけれど、今一度読み返すと、私にはこの「恋」は(奉仕チャンスを獲得する、という意味で)受けの一方的な勝利であって、相互コミュニケーションとしては別にロマンチックな内容じゃない感じがする。

「学生ん頃俺の事好きだったって本当か もしかして今も好きだったりすんのか」
「・・・ふぁい すきれふ・・・」
「・・・ふーん 俺は嫌いかな 深みにはまったら怖ぇーし」

これが最初のセックス後の会話。

「忘れてたお前ホモなんだっけな 忘れてたってのもあれか・・・フェロモン効果なのかね 自覚ないけどさ  ・・・俺はお前のこと嫌いって言ったよな 何で嫌いって言葉選んだのかな 好きだと困るよな・・・ おまえみたいに厄介なの なんか終わってるって感じがするから好きとかそーうのはナシにするけど もしかしてさ 挿れたいか?」

これが二度目のセックスで攻めが言った言葉。・・・確かにここで見られる微妙な変化は何か怪しげなものを告げているかのよう。

んで、描き下ろしでは、森先輩視点で二人を見てる話なのね。そこでは升岡のフェロモンは薄井のせいで醸し出されるものだと示唆される。また、薄井が無用な森先輩よりも有用な升岡のほうを優先する理由に「俺は升さえいれば事足りるんでね」と言っちゃう様を「ラブラブだ」と意味づけている。ソレに対して薄井は「また人をホモ扱いして」と返す。升岡も森先輩の意見に満更ではないようだが、彼も攻めと同様あまりラブラブだという自覚はないようだ。

「僕邪魔ですかね・・・」
「いや どう見たって俺が邪魔でしょ 二人とも変なとこで天然なんのやめてよ〜 お金貯めたら出てくから辛抱してねン」
「・・・森さんがいると楽しいですよ 先輩も外出ると森さんの話ばっかりです 正直ちょっと羨ましいです」
「(ビミョーに嬉しくないな オカド違い・・・)・・・いや 共通の話題が他にないだけじゃない?」

描き下ろしでは、とにかく森先輩によって二人の関係がすでに「自覚のない二人の恋愛である」と示唆されるのね。

ちなみに、ここでは二人の関係にある喩えが並べられている。↑にあるように、「実は森先輩って薄井に好かれている」という升岡からの意見が「ありえない(はずの)もの」として取り下げられているが、この“どっちなのか解釈が分かれる”事態は、薄井と升岡の関係でも同じなのね。つまり、非常にどっちつかず。それなのに第三者からは、「何か」「ありえない(はずの)もの」が示唆される。
でも、私からしたらジェラシーを持つ薄井のさまは単に他の男の唾が付いた肉便所は使いたくないってだけのように見えるし、独占欲も単に自分への好意から升岡に対する優位性や所有している証拠を確認したいだけのように見える。そもそも、ヘテロだって気が動転したら同性に(特にゲイやオカマと思しき者に対しては)何するかわからんくない?という。

・・・とは言え。〜のように「も」見える、だけなのであって、確かに示唆される以上、そこには「無自覚なラブ」の可能性が否定できない。


ところで私はヘテロが同性を好きになる事を、ゲイが同性を好きになることに比べて取り立てて特別だとは思わないし、ゲイ(<女性含む意味)が異性を好きになる事をヘテロが異性を好きになる事に比べて取り立てて特別だとも思わない。バイなど非モノセクシュアルがひとつのジェンダー者を好きになることも同様だ。

そりゃまあさ?アイデンティティは揺らぐものとは言え、誰でも簡単に揺らぐとは限らないので(特にストレートとされる立場は揺るがされる機会自体が少ない)「え!?ヘテロなのに!?」という驚きは確かにあるのだけど、だからってヘテロによる同性間恋愛感情に何か特別なロマンスが見出される理由は考え付かない。だから、ヘテロによる同性間恋愛の様を見て、「性別を超えた愛(この言葉自体意味不明で非常に異性愛主義的!)」とか過剰に美化・評価する向きをたまに見かけると、胡散臭くてたまらない。
自己のセクシュアリティとマッチしない恋愛はマッチする恋愛に比べて卑小なものなの?じゃあちょっと前からある純愛ブームは割合卑小な感じよね!!


・・・さて、今回の二人の恋愛があまり直球な恋愛形式として綺麗に収まりきらないのは、関係とセクがマッチしなかった所も大きいはず。というか、規範化された異性愛主義(とホモフォビア)によるところが大きい。もし、彼らの関係が「無自覚なラブ」だとしたら?その場合、薄井は升岡と恋愛することにより、マッチしないセクシュアリティとホモエロチックな関係との間で、アイデンティティが引き裂かれた主体だと言えそう。(「自分はヘテロだ!それなのに体が勝手に!」)

しかし、そのように解釈できるとは言え、私はその前に「本当に薄井って升岡に恋してるか〜あ?」と立ち止まってしまう。
私はヘテロも同性の「フェロモン」にやられてセックスしたりする事も普通にあると思うし、セックスってつまりコミュニケーションだから所謂「情が沸く」ことも充分あり得ると思う。そしてそれは何か取り立てて特別な感情だとは思えないのね。ソレが特別なら、正に純愛映画・小説やらが指す恋愛と、そこらの居酒屋・床屋で聞けそうな「気づいたらその場の流れでそういう雰囲気になった」という微妙な関係にどうやって垣根を作れると言うのだろう?いや、元より作れまい。

でね。私なんかは、必ずしも「特別な恋愛」ではないと解釈できる関係って「それは恋愛である」という意味づけから逃れる事が比較的可能になると思っている。「それって単に性のはけ口+ただ都合のいい相手で、恋愛感情じゃないんじゃない?」という風にすら解釈できる。もちろん、「性の捌け口」と「恋人」の違いって何よ?という疑問が次にくるんだけど(アセクでなかったら尚の事)、それでもやっぱり、実際に他の関係性(セフレとか性虐待関係とか)との垣根が感じられない限り、大した根拠もなく「無自覚なラブ」と言われても何だか釈然としないってのも、正直な本音なんだよね。

もちろんそこで「本当の恋愛感情とは?」という議題を扱っても不毛なんだけどさ。そしてその問いに答えを出すことの暴力性はきっちり理解しておくべきなんだけどさ。
それでも、「特別な恋愛(純愛とか?)」という意味づけが難しい升岡と薄井の関係も、やはり恋愛以外の関係として解釈でき得るのではないか、って思いもあるわけですよ。それが偏った恋愛イデオロギーだとしても。

・・・まあ、何か過剰なロマンスを付与しないと「それって本当に恋愛なの?」という疑問が強まるっつー背景自体、とても不気味な観念を背負ってるんだろうけども。

問題は、二人の関係が取り立てて「無自覚なラブだ」と意味づけられている事自体の、意味だ。
おそらく、彼らの関係に対する解釈は大きく分かれそう。それはつまり、「正統な恋愛である」という権威を社会的に保障されてないことを指すんだと思う。しかし、今回は森先輩という第三者から、とても恋愛であることが示唆されている。ただ、その根拠が微妙に主観的である。しかし、このテキスト内では、根拠薄弱さえもどうでもいいのだろう。
解釈は別かれる。それなのに、・・・だ。

ここで私は直感的に「二人の関係を恋愛だと解釈出来たとしたら、それは自分自身に『ヘテロなら特別な恋愛感情がない限り同性と寝ることは出来ないはず』という観念があるからではないか?」みたいな疑問が出てくる。
しかし、面白い事にこのお話では受けのフェロモンが関係変化を促している。同時に度重なる受けへのセクハラ・痴漢・レイプ未遂が描かれる事で、「特別な恋愛感情がなくてもヘテロ(というか非ゲイやバイ)が同性に迫ることはあり得る」と最初に示されてる。だから、私が攻めが受けと寝たり独占欲を見せる姿から恋愛感情を読み取る行為に、そうした観念↑はないと考えてもよさそう。
では、仮に私が二人を恋愛関係だと解釈するとしたら、それ以外にどういった観念(解釈の理由)があり得るだろう?

それはやっぱり、攻め自身による「どうして嫌いだと言ったのだろう?」という戸惑いを表した台詞があるからだ。
実際、攻めだけが受けのフェロモンを感じていな節があるため、攻めの言動から「純粋な性欲」よりも、「純粋な恋愛」を読み取る事が容易となる。他の性欲だけの男が比較対照として隣にいるから、特にね。
そして、そもそも私(たち)は、言語化不可能な情のことを「恋愛感情」と読んできたのではなかったかしら?


・・・なぜ薄井は、ただの後輩だった升岡が自分以外から性的被害を受ける事に憤慨したのか?なぜ好きだと言い辛そうにしながらも距離を取らないのだろうか?それどころか独占したいかのような振る舞いを取るのだろうか?
好きだから?

けれど、どこまでいっても微妙なんだ。攻め自身も「自覚がないだけでフェロモンにやられているのかもしれない」と告白しているし、そうだとしたら森先輩や痴漢と同じになって、「恋愛感情ではない」という意味づけが可能になる。しかもフェロモン誘惑説の反対言説は用意されてないので、「ヘテロの気紛れ」って域を出ない、とも言える・・・。つーか、お話自体が半端なところで終わっているから。

とまあ、ここまで考えると結局、どのように解釈してもその解釈は恣意的であるって事実しか残らない・・・。

だからこそ、あえて「恋愛だ」と解釈して、「ガチガチのホモフォーブがビッチゲイの魅力で恋に落ちたお話」として、あるいは「受けにメロメロなツンデレ攻め」として、消費するのが正解な気がしてくる。実際、腐としてはそうする方が勝ちなんだと思う。
それでも「いやでも、ただ単にヘテロの気紛れじゃねーの?ヘテロってちょっとした拍子でそゆことしそうだもん・・・。そういうのって恋愛って呼べるの?別に呼んでもいいんだろうけど、ていうか、升岡も体よく肉便所+@として利用されてるだけかもしれないのにのん気というか図太いというか・・・」とか思ってしまう私は、腐としてへたれ組なんだろな・・・w