「凍る月〜灰色の衝動〜」を読んだ。

凍る月 ~灰色の衝動~ (ラヴァーズ文庫)

凍る月 ~灰色の衝動~ (ラヴァーズ文庫)

  • あらすじ。

支配する者とされる者…。梁井轟と鳳光陽の関係は、ある「契約」によって成り立っている。その契約がなければ、お互いが死んでしまうという関係は、恋愛感情にも似て、相手に対する依存心と独占欲が日々深まっていた。特に、光陽に対する梁井の執着は激しく、常に光陽を傍におきたがるが、ある時、その梁井がひとりの少女を連れてくる。そして、光陽の前にも謎の青年が現れて…。同じ運命を背負う者に梁井と光陽は翻弄され、お互いを見失ってしまうが……。妖しくもつれ合う感情の真の支配者は誰?

  • 帯。

復讐か屈辱か・・・。
俺はまた、お前を傷付けたか・・・?

BLレビュー。

さてはて、今回は08年度ベストBLで一言だけ紹介しました、獣人とその「餌」たちが織り成すミステリアス人外モノ・『凍る月』シリーズ三作目です。
・・・うん、面白かったー。最近本当にBL小説が読めてなくて、かろうじて遠野春日さんの『キケンな遊戯』(逞しい年下攻め×優等生受の高校生モノ)を読めたくらい。・・・でもあれも「そのエピソードすっぱ抜くんだ?」と若干テンポが合わず、最後まで読んでも「センシティブになるのはそこなのか」という部分もあって相思相愛なはずのキャラクタに感情移入出来ず、それほど感動的ではなかったのよね。まあでも、珍しくアナルよりフェラのほうが抵抗感なさそうだったり、中途半端に男同士の恋愛が当たり前だったりで興味深くはあった。
っと、脱線した。
で、そんな中この作品はとっても気持ちよくアップテンポに読めました〜♪
いやー、シリアスな設定のはずなんだけど、ぽやーんとした光陽(に巻き込まれて日和り気味へたれ男と化した轟とその仲間たち)のせいで若干コメディ臭く感じられます。それでいてグロテスクな描写を過剰に控えないあたりがライトSFモノとして心地よいんですね。
つっても、正直2作目までの内容が中々思い出せなくて手こずったのだけど、(唯一偽善平和主義的な人格者ってだけで)大した力もないのに、なぜか皆の視線を釘付けにするヒロイン・光陽を見て「あー、そういう話だったっけ」と気づきましたw

で、今回もかなりキャラクタが増えましたので、きっとこのシリーズは長編になりそう。良い事です。光陽を王子様とからかう謎の紳士・須王もラストに良い味を出してました。あと、「組織」でトップ4の獣人・忍みたいなクレイジーキャラも喉に引っかかった小骨っぽくて楽しいし。
なんていうか、特殊能力を持つ社会的マイノリティを描いたお話って本当に楽しいですよね。

そういや自身も獣人でありながら(頑なに獣化せず)獣人狩りを勤しんでらっしゃる銀を、tatsukiさんは「受けっぽい」と言ったけど、そんな感じの攻めも美味しいと思いますv(あ!またベクトルが逆になっちゃった。。。 
そして今回は轟の影が薄かったため、光陽がいつ彼らに乗り換えるかと冷や冷やしました。<これ以上多情だと轟が哀れだよ・・・。


という訳で、これからいかようにも料理できる複雑な相関図が素敵でした♪

しかし、ピンナップを見て案じていた危機が実際に起こり、執事のアレックス共々気の毒だなぁと思いました。まあ・・・嫌がってるけど光陽もきっと楽しんでたんだと思いますビッチ万歳。

それにしても、二人のお守り役であるアレックスも甘いですよね、何度も外出を許したり。それに、10歳少女の素顔を見抜けなかった轟も、何だかんだと協力的な銀や昌史も皆甘ーーい。

あ〜、この緩い連帯感が「〜とその仲間たち」系で面白かった!


・・・ところで、この内容で「バトル」という単語を多用するのは妙に間抜けっぽくて、ちょっと脱力しましたw


以下ネタばれ。

で!

今回アタシがすごい萌えたのはやっぱり昌史さんでした^^
あのね、あのね、轟たちと敵対してる「組織」に所属する「餌」の昌史さんは、とっても可愛らしい外見に反して本性は生意気な小僧なのです。そんな昌史さんも光陽の影響を受け、ツンデレ化しちゃった残念な人なのですが、彼も組織内で権力を持ってるのです。しかし、哀れにも忍なんかと「契約」を交わしたために、どうやら虐待の日々らしいです。

で、轟を助けるために光陽と銀が組織の施設に向かった先、鉄棒で壁ごと串刺しに磔られた昌史さんを発見したのです。昌史さんによると、以前に光陽を助けちゃった咎で忍にヤラれちゃった模様です。

・・・月明かりの中、不死身で痛覚のない年老いた少年が残虐に磔られ諦観してる様とか・・・、すごく好きツボです!!

 「どうして・・・?そんなもん考えたことねーよ、大したことじゃねーだろ、こんなの・・・。どうせ死なないんだ、何やったって・・・」
 【中略】
 「死ななきゃいいなんて、おかしいよ!いくら死ななくても、つらいことはつらいんだ!俺は昌史さんがこんなふうに痛めつけられてるのは嫌だ、だから勝手に助けるよ!」
 ぽかんとした顔をしている昌史に怒鳴りつけ、光陽は銀の手を借りて昌史の身体に突き刺さる鋼鉄の棒を抜こうとした。
 「訳分からねーな、お前・・・。それとも俺がおかしいのか・・・?長く生き過ぎて、感じなくなっちまったかな・・・」

轟の父と契約して自害したという餌サンもそうだけど、こういう不憫受け属性大好きだーvv

さてさて。昌史さんと「一時的に契約」した銀との関係が今後どうなるのか気になりますが・・いっそ最後はぼっち一人で死んじゃうって落ちも素敵だ・・・!!(サイテー。

あと、轟で萌えツボがもう一つ。↓

 「お前からしてくれるなんて、すごく珍しいじゃないか・・・。もっとしろ、光陽」

「もっとしろ」とか率直過ぎて子供みたい!!!(>∀<///
あと、「ケ、ケチじゃない!」も好き。甘えんぼへたれ攻め万歳。

nodada's eye.

実は驚いた事に、轟はイギリスへの出張中に光陽に無断で一人の少女と「契約」してきたんですね。契約方法は血を飲ます程度で性的なものではないんだけど、それで餌の成長は止まっちゃうし、他のパートナーを探さない限り安易に離れられなくなるので大事です。ていうか、ここでは「契約」と「恋愛」のズレが、実際の関係を揺るがすお話な訳ですね。契約は恋愛とは違うのに、ソレに似たパートナーシップとなり、モノガマスな恋愛関係を脅かす、というね。

んで、その少女に嫉妬する光陽夫人。本妻が愛人に・・・本当にあった怖い話!!!的展開であります。

なななーんと、無邪気に見える10歳の少女が本妻に牙を向く!!

 「ねぇ、光陽。轟、ちょうだい」
 【中略】
 「な、何言ってるの・・・?きみ・・・」
 声が震えてしまうのを隠せない。
 「あたしだって、轟とできるって言ってるのよ。―――セックス」
 【中略】
 「だ、だって君はまだ・・・子どもじゃないか・・・」
 目の前にいる小さな子どもが恐ろしい悪魔に見えて、光陽は息を呑んだ。
 「男同士でするより、いいんじゃない?」
 【中略】
 十歳の子どもに畏怖を覚えた。杏奈が本気で言ってるのが分かったのだ。梁井が子どもを相手にするはずはないと分かっていても、恐怖で指先が震えた。
 【中略】
 (男同士と・・・どっちがおかしいのかな・・・)

えーと確か、光陽と轟は餌の契約をしたが(まさか轟に血肉を喰らわせる訳にもいかないので)仕方なく精液を提供するようになったのよね。そこからゆっくりと恋仲になったはず・・・。で、轟のセクシュアリティって具体的に明かされてましたっけ?もしかしたらヘテロだったかもしれないけど、その場合轟はセクとマッチしない恋愛関係を持ってると言える。というか、光陽自身も以前は男性と恋仲になる事を考えもしなかった人だったような・・・。だとしたら、セクシュアルアイデンティティと必ずしもマッチしない関係が、「男同士」以外でも十分にあり得る・・・という事実を光陽自身も体感してるはず。
ならば、恋人が少女になびく可能性も否定できないのでは?と思うのだが、なぜ光陽は自分とのケースを特権化して「少女が相手なら、ありえないだろう」と言い切れるのかしら?
うーん。もしも少女が攻めキャラだったらば、あるいは・・・?と考えたけど、やっぱりBL的にはありえないか・・・。
でも、なんでありえないんだろうか・・・。
BLって非ゲイ同士の恋愛を何か「イレギュラー」として印象付けしてる趣が(一部で)感じられる。しかしそれは表面的な部分な気がしてしまう。
もしかしたら、その「イレギュラー」とは単純にイレギュラーなのではなく、一個の様式に必ず落ち着くよな力学(ディシプリン?)が働いているのかも・・・?その場合、何に対して「イレギュラー」性が発生してるのだろうか・・・?

とか思ったけど、それはやはり作品ごとに個体差もあるだろうし、実際レズビアンバイ女性や兄弟間恋愛やその他クィア異性愛を 攻め受けの恋愛と並置するBLもあるので、ちゃんと調べなきゃ分からない話だよね。ただ、腐として何らかの「イレギュラーに見せたがる」力学を感じることもしばしばあります。