「わたしの隠れ家へどうぞ」を読んだ。

拍手ありがというございます!お一つコメントがありましたのでお返事しまーす。
・・・っは!そういえば10歳少女に手を出したら犯罪だった。いや、なんか闇の世界で殺し合いしてる彼らに飲み込まれてすっかり忘れてしまいましたw そういえばもはや一般の倫理観など適用されなさそうな彼らにとって、未成年に手を出す事ってタブーなんだろうか・・・^^;あ、でも男同士は変って規範はあるみたいですねー。
それでは!


さてさて、今宵は絶版本のご紹介・・・。



わたしの隠れ家へどうぞ (ビーボーイコミックス)

わたしの隠れ家へどうぞ (ビーボーイコミックス)


うん、面白かったわ。ほんまに。

  • あらすじ。

高級クラブが立ち並ぶ銀座の片隅にその店は軒を連ねている――・・・。
人生も中盤に差し掛かった男たちが隠れ家のような店を舞台に繰り広げる人間ドラマ。そこには傲慢な作家やサラリーマンたちが大人の愛を奏でて!? 待望の傑作集が登場!!

BLレビュー。

●わたしの隠れ家へどうぞ
●ワールド・マーケット
●其は怜々の雪に舞い―鬼と朧月―
●あうん
●あふれそうなプール 番外編

表題作を一言で云えば「待ち人」が一所に集う、アダルトなオムニバス物語で、其は怜々の雪に舞い (ビーボーイコミックス)シリーズの『鬼と朧月』含め、全ての短編が正に「傑作」、なんとも味わい深いのである。
内容自体もバラエティに富んで充実しているし、巧みな漫画的演出やディテールも本格的で読み応え抜群!


石原作品は全て読んだ訳ではないが、なるほど、文学的作風で“骨董美術品”をお描きになられた方が当方の好みなようです。しかし、落語家で好事家の描く風情というものを、私なんぞに解説する術もなく、どうレビューすればいいのかお手上げ状態。
もはやこのものがたりはエピソードと起承転結をこと細かく記述するのは無粋と言うもので、それが意味するところはつかみ所がない。己の感性で趣を感じる、他ないのかも・・・。

ああ、この淀みのない展開、キャラクタ・コマ割り・動作・言葉遣い、全ての流れに自然と引き込まれてしまいます。

そして、どのお話も、微妙な、非常に微妙なタッチで「男と男のはなし」を描いてあるため、「ボーイズラブ」が指す、あからさまなホモエロチシズムとしての色はなりを潜めている。
妙な色気漂う良きやおいでした・・・。


ところで、私は所謂「ニアホモ」モノが苦手でして・・・。あれは端的に言って覇権的男性性及びホモソーシャルな欲望でしかなく、ホモセクシュアルと女性を排除した男性だけの連帯を無批判に賛美するテキストとして有用な物語は、えてして私という存在を(も)阻害する。そのような賛美に与する気はなくて、ゆえに私は“イマドキ”の放蕩なBLこそが大好物なのだ。
しかし、当該作品を読んでも例の苦手な印象はあまりせず、読み心地が確かに「やおい」であり「BL」なのだ。

それはたとえば、『わたしの隠れ家へどうぞ』のオーナーがあえてホモエロチックに「恋焦がれる」などと物語る内容がことごとく比喩でしかなかったり、その恋焦がれた<想い人>は「長らく憎んだ犯人」や「信頼できるが心配な親友」だったりするのに、最後には物語の語り手であるバーテンに向かって「俺だけのバーテンになってほしい」と告白してしまう事からも分かる。くっきりと、男と男の艶を炙り出してしまうのである。これこそが、わたしの愛したBLのテーゼであり美学ではないか。
それに攻め/受け間以外でも交わされるセクシュアルな会話も注目だ。「相手は男性ですか?危険だなあ」という一見ホモフォビックな言葉だが、その後「危険」な男から「慰めてくれ」と言われて「やですよ、羽生さんワルそうだもん」と返す言動は嫌悪感すら冗談めかしてるようで、どこか楽しそう。


また、『ワールド・マーケット』は近代の話ではあるけれど、DUMPS 完全版 (mellow mellow COMICS)のように多数の味あるキャラクタが織り成す悪童物語だ。かれらは自らの人生を安売りしてるようだが、腹に一物抱えた老若男女どもは口数少なく互いを支え、高めあっている風にも見える・・・。通り過がりである同胞たちの享楽的で絶妙な距離感はとても居心地よさそう。

この話はどいつとどいつが受け攻めなのか若干分かりにくかったが、「痴話喧嘩」と揶揄される二人の関係は、(ポルノ小説を生業にしている左右木などから)女性の性の商品化を介して微妙にエロチックなものだと示唆される。ミソジナスなホモソーシャル。であるのだが、さてはてどうしたものか・・・。


『其は怜々の雪に舞い〜』は、コミックス化されている同シリーズも大変面白かったが、こちらも美味。
舞台は大正だったか。葛葉が女形とは言え、男に対して「美形なんて葛葉さんだけで十分じゃないですか」と賞賛する声が自然に扱われていて、それがまず楽しいし、人情味溢れる怪奇譚がこんなにも浪漫だとはなぁ・・・。

「あれは琥珀という木の汁の塊ですよ 中でも良品の虫入り琥珀というものだね 入っていたのはとかげのようだったが」
「『竜の卵』という名前ひとつで尚更心が揺れ踊ります」
「それは浪漫だね 大御堂老の浪漫を壊さずに首尾よくゆけばよいのですが」

また、妖の類をただまやかしとするのではなく、魑魅魍魎を纏う美青年の姿を描くなど、怪奇な雰囲気が壊されないところが美味しい。

こちらも、確かに主要人物の相関図はせいぜい「ニアホモ」であったが、これにホモセクシュアルが排除されえないのは同シリーズの「頤」を読めば分かる事。


で、二人の京友禅の匠たちが登場する『あうん』は、正にいがみ合っている「ホモ臭い」ライバル関係そのもの。元々夏は死の香りがするものだが、一方の灯火が消えかかる時になってやっと素直に共同作業ができた二人の様は、本当に助手である瑛君が嫉妬するほど「阿吽の呼吸」。
そして、他の男の手を取った妻のもとを離れ、好敵手との「合作」を織り成した後に儚くなってしまう・・・という悲劇的顛末に落とさない辺りが、とてもイマドキのBL的開放感に溢れていて、清々しいのだ。
その後、以前のように喧嘩っ早くなる彼らだが、今更なほど引き立つ仲睦まじさは何だか老夫々みたいで・・・。小栗が見た夢の中の水面には、永久の安息さえ感じさせる。


そうそう、あふれそうなプール 1 (HUG文庫)に登場する彼らの後日談は作中で最も直裁的でセクシーだった〜。

「てめえ俺にケンカ売りに来たのかよ」
「バカ言うな 抱きに来たんだよ」

なぜか、ありきたりな台詞なのに彼らが言うと妙に気恥ずかしいw

まあ、あまりにナイーブな思春期を描いた本編ばかりは正直私の口に合わなかったのだけど・・・、しかし、大人になるため成長中の彼らもなかなか好い男になったものだねぇv


ああ。本当に夢心地になれたBLでした、ご馳走様・・・。