「クララはいつも傷だらけ」を読んだ。

拍手ありがとうございます!!わーい、今回は三つコメント頂きました。
>7日の13時頃いらした方。
読んで頂いてありがとうございます!勿論、BL読者向けに「萌え」を中心的な切り口とするのも楽しいのですが、こちらを始めた動機のひとつは、BL読者以外の方・・・すなわちBLの表象に関心のある方向けのレビューを作りたいと思ったからなんです。だから興味を持って頂いて嬉しいですし今後もいっぱい精進したいです!

>tiekoさん。
うわーい、頑張りますありがとうございます〜!BLのクィア表象を考える時、必ずといってイイほどBL内で描かれる恋愛観が重要になってきます。だからこそ恋愛観(モノガミー的制度等)をまず分析しなきゃいけないなぁと感じています。西田東さん、私も最近また読みたくなりました、イイですよねv

>8日の22時頃いらした方。
だ、大好きって言ってもらえてすごい嬉しいです(>u<)こんな拙いブログでも楽しみにしてくださってる方がいる!!あっちブログも読んで頂いてありがとうございます♪ 書かなきゃいけない記事は多くあるのに最近ちょっとモチベーションが低くて滞ってますが、これを励みに書いてみようかな!

それでは皆様、拍手とコメントありがとうございました!!


今日はこちら。

クララはいつも傷だらけ (mellow mellow COMICS)

クララはいつも傷だらけ (mellow mellow COMICS)

  • あらすじ。

カッコよくて乱暴者のクララと腰の軽いオカマのマサカリ君を描いた『クララはいつも傷だらけ』、遊び人の義兄への想いを描いた『テイク イット イージー マイ ブラザー』、恋した人の命令を待ち続けるマメシバ君を描いた『spend“10days”with my dog』、不倫の関係を描いた『くろねこ願望』、そして男のコたちの純愛を描いた『さんさんと茜射す』に『むくどりソーダ』を加えた全6編収録の短編集。

  • 帯表。

ちょっぴり腰が低い、男好きのマサカリ君。ある日、酔った勢いで女の子にモテモテのクララをお持ち帰り。つまみ食いのつもりだったのに意外や意外、クララは本気モード突入!!
ドSのクララとオカマのマサカリ君の恋を描いた表題作ほか、全6編収録のファーストコミック!!

アナタを飼い占めたい。

おい!昨今のSM定義が杜撰過ぎるのも問題だが、作中罵倒として使われた「オカマ」をそのままゲイキャラに当てはめるなよ!

  • 帯裏。

ドS、ヤンデレ腐男子、義兄・・・・・・
バラエティ豊かな男の子たちの恋愛を描いたファーストコミックス!

帯表からしてこの腐男子呼ばわりも根拠レスの名づけなんだろうなぁ。。。

BLレビュー。


なんかこういう絵柄とキャラクタ性好きだわぁ。上手く言えないけど、(外見が)クリン、(メンタリティが)パルン♪みたいな。
で、どことなくダウナー系なんだけど、あくまでライトテイスト。
まあ詳しい作風のレビューは語彙豊かな人に任せるとして。
両方受けっぽい容姿が特徴的。ちょっとメンヘラ気質な匂いがして、若干自分とシンクロしました(「痛い系」「エキセントリック少女系」「中二系」って言うんだって)。服装とかもソレっぽくて好きv こゆキャラがビッチだと嬉しいな。話によってはヒトを食った感じがある。で、妙にリリカルな雰囲気も。ウザい人にはちょっぴり退屈なポエムみたい。なんだけど、その中身は案外ありきたりな「ひたむき一途なのが恋愛として正しく、幸福である」といったテーマを表していた感もありましたー。ソレが男たちの愛に物語性を生んでいたようです。
あと、ところどころゲイが「ホモ!」みたいに蔑視される雰囲気が散見されました。しかし、嫌悪を見せびらかさないキャラクタも同時にいますね。ここらへんは詳細を見てから判断したいが疲れるので遠慮したい。
ところでなんで乱暴モノのクララなのにタイトルが『クララはいつも傷だらけ』なの・・・?

いきなりネタバレー。
『クララはいつも〜』
表題作は要するに、自分が立場的に上で付き合ってやってると思い上がってる攻めが、実は「軽い気持ちで一度寝ただけなのになんで彼氏面されなきゃならねーの?」と受けから思われてるっちゅー話。
でも、コレ心底驚いたー。
何の自信か、付き合ってるだけで相手が自分の思い通りになるって偉そうに思い込んでる男子っているじゃない?
こうゆう不遜な態度とる人ってさ、こう、無意味にプライド高いよね。で、アタシこゆのに弱いんです。なんていうか、面倒くさいけどプライド壊したら可愛そうだから表面上は付き合ってあげようって気になる。
女の子でもそう。なんでか女の子ってだけで少し甘えた猫撫で声出せば男は何でも言う事聞いてくれる!って思い込んでる不思議ちゃんは正直迷惑なんだけど、期待を裏切ったら可愛そうってか不憫なのでやっぱり言う事聞いちゃうんです私。

で、マサカリ君はクララにウンザリして突き放すんだけど、そしたらクララったら「お前オレの女だろ!」ってキレちゃってビンタするのです。わざわざ公衆の面前で。そんなわけで、マサカリ君は「悪いけどお前のもんじゃない」と答える。したら、・・・なんとクララ、急に泣き出すんですよ

ソレ見て私、

え、ええええええーーーーーーー。
・・・・・えええええええええええええ!!?
いや、え、ちょ、だって、・・・ええ、どええええええええ???

とショック受けちゃいました。な、なんて情けないのこの俺様攻め・・・。

でも幸い、不憫な感じはしませんでした。なんか、むしろ愛らしいんです。
マサカリ君は言います、「忠犬みたいで可愛い」と。


『spend“10days”〜』
なんか猫目少年が攻めに言い寄って一方的に尽くしていました。「一度寝ただけで付き纏われるのは迷惑だ」と言ったら、猫目少年は攻めのメガネ破壊しちゃった!のでもっとエキセントリックに攻めを振り回すのかと思ったら、案外理不尽な男の要求を何でも答える頭弱そうなヒトで、ちょっぴり期待はずれでした。


『くろねこ願望』
私の中で唯一攻めが攻めっぽかった話。典型的年下攻めって言えば分かるかな。コンビニ店長と不倫してる受け、二人の恋愛に対する低体温が信じられないと嘆き、最愛のヒトを慕う攻め・・・。何気に受けがダメーンズ!


『テイクイットイージー〜』
これは結構好みの襲いビッチ受け。仮病まで使って攻めの恋路を邪魔する。「くっくるっきちゃう〜」と喘ぐ受けってあんまいないよね。

「オレはトモくんの大切な初めてのヒトなのにさ〜」
「おい いい加減そのことは忘れてーんだよ」
「え〜 あんだけノリノリでヤっといてー きゃははは・・・ 忘れたいとか カンベンしてー」
「・・・・・・」


『さんさんと茜射す』
BL好きで眉毛なしの三白眼な彼は攻め?受け?てか、二人とも受けそうだね。
これ、周囲のホモセクシュアルパニックがなかったら何事も起きない高校青春ラブ物語だったのにね。あと、新戸くんがさり気なく「ニート君」って呼ばれててこっちが焦った。


『むくどりソーダ
なんとなくアンニュイ。卒業してから遠距離恋愛って難しそうだし不安だけど出会っちゃったんだもん・・・って話らしい。
でも最後まで「むくどり」が物語の何を意味していたのか不明だった。きっと繊細な機微を表してるのね。みたいな。
あんまり印象に残らなかった。

nodada's eye.

まず興味深かったのは『クララ〜』と『spend〜』の対比。
いつもは彼女に対して冷たく横暴なクララ。そんな彼に「たった一回寝たくらいで彼女ヅラすんなよこのオカマ」と言われたマサカリくんは、「たった一回寝たくらいであんな過剰反応するなんて悪いことしたな」と後悔します。なのにクララは、マサカリくんのことを「ウチの(もの)」呼ばわりしたり、マサカリくんの部屋に入り浸ったり、当然みたく彼氏面する。で、そういう男にありがちな、自分の「女」は多少バカにするもの、って態度がまた嫌な感じ・・・。だからマサカリくんは彼を突き離し、連絡を絶つ。したら、クララはキレてビンタ。

マサカリくんは、そんな身勝手なクララと付き合ってきた彼女さんを見て、自分の女友達に「女の子って酷く扱われるのが好きなの?」って聞きます。

「女の子だったらねー 結構そういうの好きな子多いよ 酷い事言われる特権?みたいな」

だけど俺はかわいい女の子じゃないのだ どうしても クララがどう思おうと

「おまえオレの女だろ?」
「・・・・・・残念ながら 女やないし おまえのもんでもない」

だがしかし!泣き出したクララとマサカリくんは結局付き合い始めます。
・・・ところで、このお話の冒頭では、クララは横暴な「ドS」として語られています。
ですが、物語の最後には↓のように「S」者が攻めから受けに入れ替わっている。

マサカリ「それにしてもあれのどこがドSかと!!わろてしまうわ 弱いからワンワンゆうてるだけやろっ?」
〔・・・〕
咲ちゃんに言わせると
「マサカリのがSだったってことかな」
そうかもしれない
なんせオレはあの泣き顔を何度も見たいと思ったのだ あきれながれらも


さてはて、ここでクララの“横暴さ”が「男らしさ」ではなく「サディストらしさ」として位置づけられていることに注目。けれど、それは微妙に間違ってると私は思う。
だって、クララがマサカリくんにまで「自分に従属するのは<女>である(=おまえはオレの女だろ?)」という性役割を押し付けてる事からも分かるように、「ドS」と言われた横暴さは、正しく異性愛男性の特権であるはずだもん。
それが作中では「ドSである」として、存在する男性性(の暴力性)がボカされている感じ。

そして、この意味においてマサカリ君は、「おれは女ではない」と断言する事でクララの異性愛的で覇権的男性性による所有要求を断固拒否している、拒否することが出来ている。
つまり、ここでは「女性」は男性に所有されるものとして設定され、尚且つ女性の名づけを排除する事でクィア男性が女性に担わされた性役割を回避できる仕組みが出来上がっているわけ。

もちろん、クララのような横暴さを拒絶する選択肢は多くの人が欲しいだろうし、「オカマ」と罵られる立場だからって、そんなミソジナスな隷属を強いられる云われはない。
けれど、彼の「オレは(男に所有されたがっている)女じゃない」と告白する事で、自らもミソジナスな恋愛制度を維持及び支持してしまっているのではないか。と私は思う。(所謂「アナタと違うんです!」メソッドで、相手を予め自分より劣った対象と見做すみたいにね)
しかも、最終的にはマサカリくんが「ドS」となることで、所有される女から所有する男へと立場を逆転する事が出来たんだ。まあ、それでもマサカリくんがクララとは別の「ドS」さを発揮してゆくというのなら、そこにこそミソジナスな性役割と恋愛制度を覆す余地が生まれると言えるんだけどね。


で、次に『spend〜』なんだけど。
マメシバくんという受けの子は、メガネを失った湯本のためと称してお世話係を買って出る。そこで湯本は感情の見えないマメシバの愛を試すように、あまりに理不尽な命令をしてくる。
攻めの湯本は己の恋愛観などをモノローグでこう語っている。

他人との蜜月は短い方がいい 素直な子も変わった子もひとりよがりな子も思い込みが激しい子も
どの子も一晩で別れれば かわいいところだけ見ていられる
その方がお互い楽しいよな

そして、理不尽な要求にもめげずに堪えるマメシバを見て、彼はある事実に気づく。

かわいい こういう子と前も付き合った気がする 素直で変わり者で思い込みが激しくて ひとりよがりでさ 何人もいたよ つーかそうかああ マメシバって 
今までつき合ったすべての子に少しずつ似てるんだ だから切ないのか

これを見て私は、『クララ〜』と対照的だなって思った。マサカリくんと違ってマメシバくんが女性性を受け止めているかのようだから。

それにしても、女性と付き合いがちな男性が男性と付き合いだすとそれが例外的で、故に特別な存在かのようにみなされる事がある。『spend』は、いわばこうした「男同士なんだから特別な愛なのね!」という評価を自ら引き剥がしている風に見えて、何か印象に残った。(ただし、もし彼らの関係がこれまでの「短い蜜月を交わした女性たち」とは異なる恒久的な恋愛関係になると示唆されたならば、このテキストも「男同士だから特別な愛!愛は性別を超えるのね!」みたいな読まれ方を促すかもしれないけどね)

しかし、『クララ〜』と『spend〜』で描かれ、拒絶or受容された女性性の違いとは、何だったのだろう?『spend〜』では、一見無表情なマメシバの「好きな男の部屋に入れて嬉しい、好きな男から話しかけられて嬉しいと顔に書いてある」表情が、攻めにとってのチャームポイントとして二度印象付けられている。「男を想い慕う姿」が愛されている、というわけ。これも女性性のひとつだと仮定すると・・・・こんな感じ?↓
「男に所有される女性性」
「男を想い慕う女性性」
・・・。
こう比較してみると、なんだか、結局ヘテロロマンスの中で比較的痛くない系の女性性が受容されただけのような気がする。
ただ、この『sped〜』では、刹那的な「ヤリチン」キャラを演じとおしたい湯本の中で(「短い蜜月で相手のかわいいところだけを見たい」)引き裂かれ別離させられてしまった<女性たちの個性>が、散々意地悪される悲しみを涙に湛えて愛を訴えるマメシバという男性によって還元・再生されてゆくカタルシスが感じられた。

(これぐら言やあ怒るかな・・・)
マメシバ「わかった」
(効いてないみたい?)
もやもや やっぱりせつない気分になるな こいつオレが死ねとか言ったら死ぬのかな 無表情でさ
〔・・・〕
泣いたかと思って顔を見てみたけど マメシバはいつもの無表情だった 
(オレなんかさぁ 罪悪感で一杯だよおまえ)
しかも怖いことに おまえに愛されてないのかと思って傷ついたよ 身勝手に

マメシバは湯本に「ここまで言ったら怒って離れてゆくだろう?」と試されるが、けして愛し“続ける”ことを止めない。そんなマメシバを慈しむことで、湯本は目を瞑ってきたかつての“彼女たちの心”と“愛する事の切なさ”に再び向き合う事が出来たのかもしれない・・・。
そして、向き合った結果がどうなるかは今後の彼らにかかっている。


それからもうひとつ興味深かったのは『さんさんと茜射す』だ。
ある放課後の夕方、自分たち以外に誰もいない教室で二人は親しくなった。そして、ニートくんは自分の趣味のBLを小池君にも見せて「この大好きなキャラクタと小池君が似てるんだ」と楽しげに語る・・・。それを聞いて小池君は、ニートくんは自分のことを好きなのではないか、ゲイなのではないかと思ったらしい。だから自分とキャラクタをより似せようと、髪を染めて学校へ登校する。・・・が、その日教室ではニートくんがBL雑誌を持ってるせいでクラスメイトから「ホモの人!」と罵られていたのだ・・・。そして、不登校児となるニートくん。
そのため副委員長である小池君と委員長がニートくんの自宅に足繁く通い、登校しようと呼びかける日々が始まった。
そんな中、小池くんは委員長くんにこんな話を聞かされ、ショックを受ける。

「オレ ネットで調べてみたんだけどさ ホモ漫画好きの男が皆ホモとは限らねーらしーぜ〔中略〕ただ作品として好きなだけの場合も多いんだってさ まーどっちにしろ堂々としてりゃいいと思うけど やっぱそーゆーわけにはいかねーか」

かくして小池君は「きっとニートくんは俺の事が好き」という予想が誤りだったのではないか、と慌てだす。

でも、その後上手くいきます。はれて恋人。


で、なんと言っても「腐男子」という名称が出てくる事が興味深い。BLには「腐女子」的モブが登場することもあるが、やはり男性として「腐男子」的存在は攻め受けに起用されたか・・・と感慨深いものです。
しかし、確かにニートくんはBLを読んではいるのだけど、実を言うと「腐男子アイデンティティを持っているかどうか明かされないのだ。で、結局「ホモ」であるかどうか、「ホモ」かつ腐男子であるかどうかも、はっきりとは明かされない。

ただ、それゆえにこのテキストは画期的だったようにも、思う。
腐男子という存在がじょじょに可視化される昨今、腐男子も“ゲイであるかを問わず”ホモセクシュアルパニックに巻き込まれ、異性愛主義による差別でひどく抑圧されてしまう事実が明示されたのだから・・・。

そして、「ゲイであるか否か」が明かされない事で、明かされないままに二人が愛し合ったため、「腐男子」と「ゲイ」の境界線が曖昧に描かれる事になったのも興味深かった。
そもそも「誰がゲイであるか」など当事者でも判断が困難だし名づけ自体暴力的だけど、「腐男子」からゲイ性を排除しない物語はおそらく必要になってくるだろうと思う。「腐男子にもゲイみたく変態じゃないノーマルな人もいる」みたいな観念が見え隠れする社会背景を思えば、尚の事・・・。

また、腐男子を自称しない人にすら、「腐男子じゃないのかゲイじゃないのか」などと問われたり、本人の意思を無視して名づけられることが往々にしてありうる、という事実も明示されたと言える。

悲しい事だが、この異性愛社会では腐男子にしろゲイにしろバイにしろ、ジェンダーを問わずクィアな存在は特異な存在としてまなざされるし、何かしら「アブノーマルとしての名前」を無理やり貼り付けられざるを得ないのだ。健常者でシスジェンダー異性愛男性だけが無徴で、そうでなければ有徴な存在だと位置づける『名づけの政治』。腐男子とて、この暴力から遠ざかれない・・・。

それどころか、女性と同様に性的欲望の対象ともなる。今回の当コミックス(帯も含む!)自体が、BLというモードにより腐男子(と呼ばれうる者)まで性的に消費され始めた事の証左なのだ。

そう、「男たちの恋愛のバラエティ」のひとつとして・・・。